{Q}「作風」「画風」というのは著作物に当たりますか?[補足版]
A いいえ、著作物に当たりません。
「著作物」というのは、思想又は感情を具体的に表現したものでなければなりません(2条1項1号)。「作風」や「画風」というのは、それ自体では抽象的な「アイディア」にとどまり、具体的な表現ではありません。したがって、「著作物」に当たらず、誰かの「作風」や「画風」を真似て作品を創作しても、そのこと自体は、著作権の侵害にはなりません(注)。
(注) 昨今話題になっている「生成AI」との関係で、この点が問題になっています。「〇〇(作家の名前)の作風に似せた△△(イラストやキャラクターなど)を作成せよ」と生成AIに命じると、AIが簡単に、その指示に応じた作品を作り上げてしまうからです。
【補足(生成AIに関わる論点)】
本サイト内「著作権Q&A」の中で、『作風」「画風」というのは著作物に当たりますか?』の項目が非常に多くの方に読まれています。この点に関し、近似話題(問題)になっている生成AIとの関係について、令和6年3月15日に公表された文書『AI と著作権に関する考え方について』**(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)が参考になりますので、ここで紹介したいと思います。
**留意点(以下抜粋):
『〇 この文書(「本考え方」)は、生成AIと著作権に関する考え方を整理し、周知すべく、文化審議会著作権分科会法制度小委員会において取りまとめられたものである。
○ 本考え方は、その公表時点における、本小委員会としての一定の考え方を示すものであり、本考え方自体が法的な拘束力を有するものではなく、また現時点で存在する特定の生成AIやこれに関する技術について、確定的な法的評価を行うものではないことに留意する必要がある。
○ 今後も、著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積、AIやこれに関連する技術の発展、諸外国における検討状況の進展等が予想されることから、引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくことを予定している。』
▶「著作権法で保護される著作物の範囲」に関する記述(本考え方):
『このように、著作権法は、著作物に該当する創作的表現を保護し、思想、学説、作風等のアイデアは保護しない(いわゆる「表現・アイデア二分論」)。この理由としては、アイデアを著作権法において保護することとした場合、アイデアが共通する表現活動が制限されてしまい表現の自由や学問の自由と抵触し得ること、また、アイデアは保護せず自由に利用できるものとした方が、社会における具体的な作品や情報の豊富化に繋がり、文化の発展という著作権法の目的に資すること等が挙げられる。』
▶「クリエイターや実演家等の権利者の懸念」(抜粋):
『③ 生成AIの普及により、既存のクリエイター等の作風や声といった、著作権法上の権利の対象とならない部分(以下、「作風等」という。)が類似している生成物が大量に生み出され得ること等により、クリエイター等の仕事が生成AIに奪われること
④ AI 生成物が著作物として扱われ、大量に出回ることで、新規の創作の幅が狭くなり、創作活動の委縮につながること』
▶ 『近時は、特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習を行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。
この点に関して、いわゆる「作風」は、これをアイデアにとどまるものと考えると、(上記)のとおり、「作風」が共通すること自体は著作権侵害となるものではない。
他方で、アイデアと創作的表現との区別は、具体的事案に応じてケースバイケースで判断されるものであるところ、生成AIの開発・学習段階においては、このような特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみからなる作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず、創作的表現が共通する作品群となっている場合もあると考えられる。このような場合に、意図的に、当該創作的表現の全部又は一部を生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合は、享受目的[注:著作権法30条の4参照]が併存すると考えられる。
また、生成・利用段階においては、当該生成物が、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該作品群のいわゆる「作風」と共通しているにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該生成物に、当該作品群の創作的表現が直接感得できる場合、当該生成物の生成及び利用は著作権侵害に当たり得ると考えられる。』
▶『著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」[注:著作権法30条の4但記参照]には該当しないと考えられる。他方で、この点に関しては、本ただし書に規定する「著作権者の利益」と、著作権侵害が生じることによる損害とは必ずしも同一ではなく別個に検討し得るといった見解から、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI 生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。
また、アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されること等の事情が、法第30 条の4との関係で「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないとしても、当該生成行為が、故意又は過失によって第三者の営業上の利益や、人格的利益等を侵害するものである場合は、因果関係その他の不法行為責任及び人格権侵害に伴う責任の要件を満たす限りにおいて、当該生成行為を行う者が不法行為責任や人格権侵害に伴う責任を負う場合はあり得ると考えられる**。
なお、この点に関しては、アイデアと創作的表現との区別は、具体的事案に応じてケースバイケースで判断されるものであり、(上記)のとおり、特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習を行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、創作的表現が共通する作品群となっている場合もあると考えられる。このような場合には、追加的な学習のために当該作品群の複製等を行うことにおいて享受目的が併存し得ることや、生成・利用段階において、生成物に当該作品群の創作的表現が直接感得でき、著作権侵害に当たり得ることに配意すべきである。』
**著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。最判平成23年12月8日(北朝鮮事件)では、「ある著作物が同条(注:著作権法第6条)各号所定の著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利は、法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判示している。
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