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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/
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2025年7月14日月曜日

Biz/『削除要請の基礎知識』

 

『削除要請の基礎知識』

 

▶ 削除要請とは?~削除要請の注意点~

 

「削除要請」とは、侵害コンテンツ(違法複製物、海賊版コンテンツ)が掲載されているウェブサイトを運営する事業者等に対して、削除要請フォームや電子メールによる通知を通じて、任意で、侵害コンテンツをウェブサイトから削除するように求める手段のことです。ネット上で侵害コンテンツを発見した場合に実務上まず行われる手段の1つです。

削除要請は、その他の権利行使と比べて手続が簡易で、対象コンテンツが削除されたか否かを事後的に確認することも容易であることから、相対的に費用対効果が大きいと言われ、実務上よく利用されている海賊版コンテンツ対策です。その意味で、削除要請は、即効性、利便性が高い措置(対抗手段)と言えますが、一方で、リスクもあります。根拠のない削除要請は論外として、事前の侵害事実の確認ないし検討が十分でない状態で削除要請を行った結果、逆に、相手方から営業妨害等を理由に損害賠償を請求されるリスクがあるのです。したがって、侵害事実の認定等で微妙な判断を迫られる場合には、事前に専門家の意見を聞くなどして慎重に対処してください。

 

以上の点を踏まえると、ネット上で自分(自社)の違法複製物と疑われるコンテンツを発見した場合、第一に、それが「削除要請をしても問題ないコンテンツかどうか」の確認を行ってください。その際に、まず、検討すべきことは、そのコンテンツのアップロード(ネット掲載)が「著作権法に規定する権利制限に該当するかどうか」という点です。

自分(自社)の違法複製物がネット上に無断アップロードされている場合であっても、それが、例えば、「写り込み」(著作権法30条の2)や「引用」(同321項)に当たるなど、(著作権の)権利制限規定の対象となる場合には、権利行使(削除要請)の根拠を欠くことになります。この場合に削除要請をして対象コンテンツが削除されると、後に、権利制限規定に該当して適法に利用できたにもかかわらず不当に削除されたとして、営業妨害などを理由に訴訟(損害賠償請求)を提起される可能性があることは上述したとおりです。この点、実務上も裁判上も最も問題になるケースが「引用」です。「引用」に当たるかどうかは、とりわけ慎重に判断する必要があります。注意してください。

 

削除要請をする際に注意すべき点はいくつかあるのですが、特に注意していただきたいのが、「相手方から損害賠償請求などの対抗措置を受けるリスクがある」という点です。すなわち、事前の確認や調査、検討が不十分だったり、やり方が少々強引だったりして、相手方から、名誉毀損や営業妨害、権利濫用などの理由で、削除要請をした者が逆に訴えられるケースがあるのです。この点、特に米国においては、削除要請が言論の自由の侵害であるとして、投稿動画を削除された者が削除要請を行った者に対し損害賠償請求をする事例がしばしば見られます。そのため、削除要請をする際には、相手方から法的措置を講じられるリスクがあることを考慮して、慎重に権利行使(削除要請)の是非を判断する必要があります。

なお、わが国においても、最近(令和41014日大阪高等裁判所[令和4()265])、YouTubeにおける著作権侵害通知(動画削除要請)が不法行為に当たると認定した注目の事例がありました。以下、参考までに判決の一部を掲載します:

『YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。

また、収益化されたチャンネルにおいては、YouTubeへの動画投稿によって、投稿者は収益を得ることができるから、正当な理由なく投稿動画を削除する行為は、投稿者の営業活動を妨害する行為ということになる。したがって、この側面からも、投稿者は、正当な理由なく投稿動画を削除されないことについて、法的上保護される利益を有すると解することができる。

(略)

ところで、この制度の利用について、「YouTubeヘルプ」においては、著作権侵害通知の要件として、著作権を侵害すると考える投稿の説明に加え、通知者自身が著作権者等であること、投稿者によるコンテンツの使用が法律で許可されていないことを確信していること、通知が正確であることを確認した上でこれを行うことを求め、著作権侵害通知制度を不正使用すると、アカウントの停止や法的問題に発生する可能性があるとの注意もしているが、これは、上記のとおり、YouTubeが原則として著作権侵害の実体的判断をなさないため、著作権侵害通知が潜在的には濫用的に用いられる可能性があることから、著作権侵害通知をする者に予め注意義務を課して濫用的な著作権侵害通知をなさないよう対策を講じているものと解される。

したがって、著作権侵害通知をする者が、上記のような注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYouTubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては、当該著作権侵害通知をした行為は、投稿者の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為を構成するというべきである。

(略)

以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。』

 

▶ 削除要請の参考書式①

 

(注)ここに掲載された様式にしたがって削除要請を行えば、相手方において必ず適切な対応がなされることを保証するものではありません。

(注)”DMCA”Digital Millennium Copyright Act)とは、いわゆる「米国デジタルミレニアム著作権法」の略称です。これは、米国で199810月に制定・施行された連邦法のことで、合衆国法典第17編に収録された著作権法(17U.S.C.)などを改正する立法です。この改正法(17U.S.C.§512)によって、海賊版コンテンツがウェブサイトなどに投稿された際の「通報と削除手順」――ノーティスアンドテイクダウン(notice and takedown――及び免責条件が明文化されました。DMCAの制定後、日本のプロバイダ責任制限法(2002年成立)やEUの情報社会指令(2001年成立)など、類似する目的の法律が世界の他の地域で制定されました。

 

【添付用削除要請通知(英語版)】

 

(注)DMCAにおいて定められる通知においては、「手書き署名」か「電子署名」のいずれかが求められます。実務上はメール本文と同内容の通知文(書面)を作成し、担当者名の手書き署名を行った上で、当該通知文をメールに添付する方法がとられる場合があります。

 

DATE●●/●●●/●

 

DMCA Complaints

“●●●●●(対象サイト運営者名)“

“●●●●●(対象サイト運営者住所)”

“●●●●●(対象サイト運営者メールアドレス)”

Notification of Copyright Infringement

 

 On behalf of “●●●●●(権利者名)“, I notice you of infringement of copyright on “●●●●●(対象サイト運営者名)” and request you to remove, or disable access to, the material uploaded on the above web site as follows.

 

1.A physical or electronic signature of a person authorized to act on behalf of the owner of an exclusive right that is allegedly infringed:

 

(physical signature)  _______________________________________

                                            On behalf of “●●●●●(権利者名)

2.Identification of the copyrighted work claimed to have been infringed, or, if multiple copyrighted works at a single online site are covered by a single notification, a representative list of such works at that site:

            “□□□(作品名)□□□“

3.Identification of the material that is claimed to be infringing or to the subject of infringing activity and that is to be removed or access to which is to be disabled, and information reasonably sufficient to permit the service provider to locate the material:

File upload on

URL : http://www.* * * *.com/* * * *     “△△△△(ファイル名)

URL : http://www.* * * *.com/* * * *     “△△△△(ファイル名)

4.The address, telephone number or email address of the complaining party:

●●●●権利者住所●●●●

●●●●権利者電話番号●●●●

●●●●権利者FAX番号●●●●

●●●●権利者メールアドレス●●●●

5.I have a good-faith belief that use of the material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner, its agent or the law.

6.I state that the information in this notification is accurate, and, under penalty of perjury, that I am authorized to act on behalf of the owner of an exclusive right that is allegedly infringed.

Best regards,

●●●●(担当者名)

 

【添付用削除要請通知(日本語版)】

 

DMCAに基づく通知

“●●●●●(対象サイト運営者名)”

“●●●●●(対象サイト運営者住所)”

“●●●●●(対象サイト運営者メールアドレス)”

 

著作権侵害の通知

[私/我々/当社/当職(ら)]は、「●●●●●(権利者名)」を代表し、「●●●●●(対象サイト運営者名」における著作権侵害を貴社/貴殿に通知し、当該サイトにアップロードされている情報の削除又は当該情報をアクセス不能にするよう、以下のとおり要請いたします。

 

1.侵害されたとされる著作権者の独占権を代理する権限を付与された当事者の自署又は電子署名。

「●●●●●(権利者名)」を代理して

(署名)                          

                                         

2.侵害されたと主張する特定の著作物又は一つのオンラインサイトにおける複数の著作物が一つの通知によって対応する場合は、当該サイトにおける著作物の代表的なリスト。

・“□□□(作品名) □□□”

 

3.侵害されたと主張されている又は侵害行為の対象となり、削除されるべき又はアクセスを無効にすべき特定の資料、及びサービスプロバイダが資料を見つけることを可能にするために合理的に十分な情報。

 

下記のURLにアップロードされたファイル

URLhttp://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”

URLhttp://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”

 

4.苦情を通知した当事者の住所、電話番号又はメールアドレス。

・●●●●●住 所●●●●●

・●●●●電話番号●●●●

・●●●●FAX番号●●●●

・●●●メールアドレス●●●

 

5.[私/我々/当社/当職(ら)]は、苦情を通知された方法で情報を使用することが、著作権者、その代理人又は法律によって許可されていないと誠実に信じています。

 

6.[私/我々/当社/当職(ら)]は、本通知に記載された情報が正確であり、偽証罪の罰則の下、侵害を主張する独占的権利を保有する著作権者から権限を付与され、その権利を代理して行使していることを表明します。

 

  敬具     

             ●●●●(担当者名)

 

                                                       

▶ 削除要請の参考書式②

 

(注)ここに掲載された様式にしたがって削除要請を行えば、相手方において必ず適切な対応がなされることを保証するものではありません。

(注)”DMCA”Digital Millennium Copyright Act)とは、いわゆる「米国デジタルミレニアム著作権法」の略称です。これは、米国で199810月に制定・施行された連邦法のことで、合衆国法典第17編に収録された著作権法(17U.S.C.)などを改正する立法です。この改正法(17U.S.C.§512)によって、海賊版コンテンツがウェブサイトなどに投稿された際の「通報と削除手順」――ノーティスアンドテイクダウン(notice and takedown――及び免責条件が明文化されました。DMCAの制定後、日本のプロバイダ責任制限法(2002年成立)やEUの情報社会指令(2001年成立)など、類似する目的の法律が世界の他の地域で制定されました。

 

【削除要請メールの参考書式(英語版)】

 

1. メールタイトル> DMCA Complaints

2. メール本文>

To “●●●●●(対象ウェブサイト名)”

Notification of Copyright Infringement

On behalf of “●●●●●(権利者名)”, I notify you of infringement of copyright on “●●●●●(対象ウェブサイト名)”and request you to remove, or disable access to, the material uploaded on the above web site as follows.

 

1. Identification of the copyrighted work claimed to have been infringed, or, if multiple copyrighted works at a single online site are covered by a single notification, a representative list of such works at that site:

・“□□□(作品名)”

・“□□□(作品名)”

 

2. Identification of the material that is claimed to be infringing or to be the subject of infringing activity and that is to be removed or access to which is to be disabled, and information reasonably sufficient to permit the service provider to locate the material:

file uploaded on

URLhttp://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”

URLhttp://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”

 

3. The address, telephone number or email address of the complaining party:

・●●●●●住 所●●●●●

・●●●●電話番号●●●●

・●●●●FAX番号●●●●

・●●●メールアドレス●●●

 

4. I have a good-faith belief that use of the material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner, its agent or the law.

 

5. I state that the information in this notification is accurate, and, under penalty of perjury, that I am authorized to act on behalf of the owner of an exclusive right that is allegedly infringed.

 

Best regards,       

             ●●●●(担当者名)

 

【削除要請メールの参考書式(日本語版)】

 

1. メールタイトル> DMCA に基づく通知

2. メール本文>

宛先:“●●●●●(対象ウェブサイト名)”

著作権侵害の通知

[私/我々/当社/当職(ら)]は、「●●●●●(権利者名)」を代表し、「●●●●●(対象ウェブサイト名)」における著作権侵害をここに通知し、上記ウェブサイトにアップロードされている情報の削除又は当該情報をアクセス不能にするよう、以下のとおり要請いたします。

 

1. 侵害されたと主張する特定の著作物又は一つのオンラインサイトにおける複数の著作物が一つの通知によって対応する場合は、当該サイトにおける著作物の代表的なリスト。

・“□□□(作品名)”

・“□□□(作品名)”

 

2. 侵害していると主張されている又は侵害行為の対象となり、削除されるべき又はアクセスを無効にすべき特定の情報及びサービスプロバイダによる発見を可能にするために合理的に十分な情報。

下記のURLにアップロードされたファイル

URLhttp://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”

URLhttp://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”

 

3. 苦情を通知した当事者の住所、電話番号又はメールアドレス。:

・●●●●●住 所●●●●●

・●●●●電話番号●●●●

・●●●●FAX番号●●●●

・●●●メールアドレス●●●

 

4. [私/我々/当社/当職(ら)]は、苦情を通知された方法で情報を使用することが、著作権者、その代理人又は法律によって許可されていないと誠実に信じています。

 

5. [私/我々/当社/当職(ら)]は、本通知に記載された情報が正確であり、偽証罪の罰則の下、侵害を主張する独占的権利を保有する著作権者から権限を付与され、その権利を代理して行使していることを表明します。

 

敬具     

             ●●●●(担当者名)

AK

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2025年7月1日火曜日

Biz/『共有著作権とは?著作権の共有には注意すべき点があります』

 

『共有著作権とは?著作権の共有には注意すべき点があります』

 

「共有著作権」とは

 

「共有著作権」とは、「共同著作物の著作権その他共有に係る著作権」をいいます(651項かっこ書)。そして、著作権の共有とは、数人の者が共同で1つの著作権を保有する状態をいいます。共同著作物(2112号参照)を作成した場合、同一の著作権を数人の者が譲り受けた場合、同一の著作権を数人の相続人が共同相続した場合などにこのような共有関係が発生します。

共有著作権については、原則として(共有著作権の性質に反しない限り)、民法の共有に関する規定(民法249条~264条)が適用されることになります**が、著作権法では、著作権の特質等の観点から特別の定めが設けられていますので、その点に留意する必要があります。

 

**共有著作権の各共有者は、原則として、当該著作権について各自「持分」を有し、共有著作物の全部について、その持分に応じた使用をすることができます(民法249条)。「持分の割合」は、共有者間の協議や法律の規定(例えば、民法900条)によって定められますが、それ以外の場合には、各共有者の持分は相等しいものと推定されます(民法250条)。

 

 共有著作権の行使(65)

 

共有著作権の各共有者は、原則として、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を質権の目的とすることができません(1項)。もっとも、各共有者は、「正当な理由」がない限り、以上の同意を拒むことができないとされています(3項)。一方、相続による持分の移転、持分の放棄、(他の共有者の同意を得て設定された)持分上の質権の実行による移転等の場合には、他の共有者の同意は不要です。なお、ある共有者の持分が放棄されますと、当該持分は他の共有者に帰属することになります(民法255)

 

共有著作権は、原則として、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができません(2項)。単独での行使を認めた場合、他の共有者が不測の不利益を被る場合があろうことを考慮したものです。したがって、例えば、共有者の一人が、他の共有者との合意によらないで、単独で第三者と共有著作物の利用許諾契約をした場合、かかる著作権の行使は、他の共有者の持分権を侵害するものと解されます。

なお、民法252条においては、共有物の管理に関する事項は「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で」決せられることになっていますが、共有著作権の行使の場合には、そのようないわゆる多数決原理によるのではなく、各共有者の持分の多少に関わらず、全員の合意によるというルールが原則的に適用されることになります。ここで共有著作権の「行使」とは、著作権の内容を積極的に実現すること、すなわち、共有著作権の目的となっている著作物について他人に利用許諾を与えること(631項参照)等を意味し、共有著作権の侵害に対する差止請求権の行使(保存行為)等は含まれないと解されます(117条参照。後述)。もっとも、各共有者は、著作権の円滑な利用を確保する観点から、「正当な理由」がない限り、以上の合意の成立を妨げることはできないとされています(3項)。ここにいう「正当な理由」は、共同著作物の著作者人格権の行使に関して各共同著作者が合意の成立を拒絶しうる場合(642項参照)と比べて、より客観的な合理性が求められると解されます。

 

共有著作権の行使について「代表して行使する者」をあらかじめ各共有者間で定めることができますが、この代表権に制限が加えられている場合には、対内的には拘束力があっても、その制限を知らない善意の第三者(代表者が一定の行為につき権限を有すると信じて行動した第三者)には対抗することはできません(そのような制限があることを主張することはできません)(4項)。

 

共同著作物の著作者人格権の行使

 

共同著作物(2112号参照)の著作者人格権は、原則として、著作者全員の合意によらなければ、行使することができません(法641項)。共同著作物における著作者の(人格の)一体性を考慮した規定であるといわれています。ここで、著作者人格権の「行使」とは、著作者人格権の内容を積極的に実現すること、すなわち、自己の著作物の公表(181項参照)・氏名表示(191項参照)・同一性保持(201項参照)について他人に一定の許諾を与えること等を意味し、著作者人格権の侵害に対する差止請求権の行使(保存行為)等は含まれないと解されます(117条参照。後述)。

共同著作者のうちすでに死亡した者がある場合には、生存している著作者の合意のみで著作者人格権を行使することが可能です。死亡した著作者の相続人の合意を得る必要はありません。著作者人格権は、著作者の一身に専属し、相続の対象にもなり得ないからです(59条)。もっとも、著作者の死後においても法によってその人格的利益が保護されているため(60条・116条参照)、生存共同著作者の合意に基づく著作者人格権の行使によっても、すでに死亡している共同著作者の人格的利益を害することはできません。

 

各共同著作者は、単なる嫌がらせのような信義に反する行為(倫理観念等に反する行為)によって、上記の権利行使の合意の成立を妨げることはできません(2項)。恣意的な共同著作者の不当な拒絶によって人格権の行使が妨げられる事態を防止するための規定です。信義に反して合意の成立を拒む者に対しては、訴訟を提起して、民事執行法177条の規定による合意判決を得て、それによって反対著作者の認諾があったものとみなすという取扱いで著作者人格権を行使することになります。

 

共同著作物の著作者は、著作者人格権の行使について「代表して行使する者」をあらかじめ各共有者間で定めることができます(3項)が、この代表権に制限が加えられている場合には、対内的には拘束力があっても、その制限を知らない善意の第三者(代表者が一定の行為につき権限を有すると信じて行動した第三者)には対抗することはできません(そのような制限があることを主張することはできません)(4項)。

 

共同著作物等の権利侵害

 

共同著作物の各著作者は、他の著作者の同意を得ないで各人がそれぞれ、著作者人格権の侵害に対し差止請求権(112条)を行使することができます(法1171項)。侵害行為に対して著作者全員の共同意思に基づかなければその差止が請求できないとすることは権利の実効性の面で著作者に不利であると考えられるからです。

一般に、共有財産権の侵害については、各共有者は単独で共有財産権全体に対する妨害の排除を請求することができるものとされていて、共有著作権や共有著作隣接権の侵害の場合における差止請求権についても、各共有権者による単独の行使が認められるところです(2項)。共同著作物の著作者人格権の侵害の場合にも、各著作者の人格的利益がその1つの共同著作物に混然一体となって融合していることから、その侵害に対する差止請求権の行使については、共有財産権の場合と異なる取扱いをする必要性はありません。ただ、法64条に引きずられて反対に解されるおそれもあるため、法1171項で確認的に規定したものです。

 

共同著作物の著作者人格権が侵害された場合において各著作者が単独でそれぞれの損賠賠償を請求できるかについては、著作者人格権にはその性質上「持分」を考えることができないため、法117条では規定されていません。もっとも、規定されていないことは、各著作者が自ら蒙った精神的損害を立証して、かかる損害の賠償を請求することを排除する趣旨ではないと考えます。したがって、各著作者が自らが蒙った精神的損害を立証できれば、かかる賠償請求を違法・不当とするべきではないと思います。

117条では、著作者人格権の侵害を理由とする名誉回復等の措置請求(115条)についても明記されていません。この場合、通説は、どのような名誉回復等の措置を請求するかは著作者全員の合意を必要とする、と解しているようです。ただ、例えば、共同著作者の一人の氏名だけが意図的にないし明らかな悪意をもって削除されていたり、表示されていないような場合には、必ずしも他の著作者の同意を得る必要はないと思います。事案に応じて、裁判所の合理的判断が期待されるところです。

 

共同著作物の各著作権者又は共有に係る著作権の各著作権者は、他の著作権者の同意を得ないで各人がそれぞれ、差止請求(112条)又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求(民法709条参照)若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求(民法703条参照)をすることができます(1171項・2)。共有に係る著作隣接権についても同様です(同2項)。

 

共有者のよる不実な登録に対する他の共有者による抹消請求の可否

 

この点については、以下の裁判例(▶平成140829日大阪地方裁判所[平成11()965])が参考になります:

 

『また、本件ソフトウエアの著作権は、前記(1)のとおり、本件登録[注:被告Eは、平成10年1月28日、本件ソフトウエアのプログラムの著作権者として、財団法人ソフトウエア情報センターにおいて、プログラムの第一発行年月日等の登録を行った。]において著作物が最初に公表された年月日とされた平成9年8月4日時点では、原告と被告Eの共有であり、著作権者を被告Eのみとする本件登録は、この点で実体に反するものといえる。

著作権法76条1項の第一発行年月日等の登録は、著作権者が当該著作物が最初に発行され又は公表された年月日の登録を受ける制度であり、その法律上の効果は、登録に係る年月日にその著作物が第一発行又は第一公表されたものと推定されることにあるが(同条2項)、加えて、著作権登録原簿に著作者として登録されている者が著作権者であることを公示する事実上の効果があり、この事実上の効果を期待して登録が行われることも少なくない。

共有著作物について、共有者の一部の者が単独で著作者として第一発行年月日の登録をした場合、著作権者として登録されなかったその余の共有者は、その後、著作権登録申請(著作権法77条)をしようとしても、著作権登録申請書に前登録の年月日及び登録番号を記載することが要求されていること(著作権法施行規則8条の3第1項、別記様式第六4〔備考〕2、同様式第三〔備考〕6)から、前登録である第一発行年月日登録の内容と齟齬するものとして拒絶されるおそれがあり、また、第三者に対する権利行使において、自己が著作権者の一人であることの立証につきより重い負担を負うことになるなど、円満な著作権の行使を事実上制約されることになる。この点において、著作権者以外の者が第一発行年月日の登録を受けた場合と変わりない。したがって、著作権の共有者は、自己が持分を有する著作物について、共有者の一部の者が自分を単独の著作者と表示して著作年月日登録をした場合には、当該他の共有者に対して、当該著作年月日登録の抹消登録手続を求めることができると解するのが相当である。

以上によれば、原告の被告Eに対する本件登録の抹消登録手続請求は理由がある。』

AK

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2025年6月22日日曜日

Biz/『パブリシティ権とは』

 

『パブリシティ権とは』

 

実演家、特に著名な歌手や俳優等との関係で実務上しばしば問題となる「パブリシティ権」について、ここで、少し解説しておきます。

「パブリシティ権」とは何か?残念ながら、この権利を明文上根拠づけている特別の法律はありません。「パブリシティ権」は、判例を通じて形成され確立されるに至った権利です。これまでの主要な判例を参考に定義づけを試みれば、一応次のように言えるのではないかと思います:「パブリシティ権」とは、主として、歌手や俳優、タレント等の芸能人、プロスポーツ選手などの著名人・有名人の氏名や肖像等が持つ顧客吸引力という経済的利益・価値を排他的に支配する財産的権利である。

パブリシティ権は、人の氏名・肖像に関する権利であるという人格権としての側面がある一方、あくまでその保護客体は、氏名・肖像そのものではなく、これらが持つ「パブリシティ価値」すなわち氏名・肖像を営利的に利用した場合の顧客吸引力を有する経済的利益ないし価値に対する支配権であるいう点で、財産権としての側面が沿革的に強調されてきました。パブリシティ権は、著名人・有名人が有するその氏名・肖像の営利的利用権といってもいいでしょう。

わが国で最初にパブリシティ権の存在を認めた判例は、「マーク・レスター事件」(下記参照)であると言われています。この「マークー・レスター事件」以後、多くの判例が積み重ねられ、パブリシティ権は、今や、広く認められた権利となっています。しかしながら一方で、なお解明の必要な点も多く残っており、その意味で、パブリシティ権は、なお形成途上の権利であるといえます。具体的には、次のような論点があります:

〇 パプリシティ権は、人格権なのか経済的権利なのか。

〇 パプリシティ権の譲渡は可能か。

〇 パプリシティ権に存続期間はあるのか (死後においても認められるか)

〇 文人や学者、一般人にもパブリシティ権が認められるか。

〇「物」にもパブリシティ権が認められるか。

〇 言論・表現・報道の自由との関係(出版物におけるパブリシティ価値の利用の問題等)

etc.

 

《参考》「マーク・レスター事件」(東京地裁S51/6/29

『通常人の感受性を基準として考えるかぎり、人が濫りにその氏名を第三者に使用されたり、又はその肖像を他人の眼にさらされることは、その人に嫌悪、羞恥、不快等の精神的苦痛を与えるものということができる。したがって、人がかかる精神的苦痛を受けることなく生きることは、当然に保護を受けるべき生活上の利益であるといわなければならない。そして、その利益は、今日においては、単に倫理、道徳の領域において保護すれば足りる性質のものではなく、法の領域においてその保護が図られるまでに高められた人格的利益(それを氏名権、肖像権と称するか否かは別論として。)というべきである。けだし、社会構造が複雑化、高度化し、マスコミニュケーション技術が異常な発達を遂げた現代社会は、常に個人の氏名や肖像が多様な形式で他人に利用され、公表される危険性をはらんでいるが、かかる危険が高まるに従って、逆に各人の、その氏名や肖像を他人にさらさずに生きたいという願望が強くなるというのが、現代人に共通の意識と考えられるのみならず、我国の法制によって立つ個人尊重の理念は、かかる利益に対する不当な侵害を許容しない趣旨をも含むと解されるからである。かような人格的利益の法的保護として、具体的には違法な侵害行為の差止めや違法な侵害に因る精神的苦痛に対する損害賠償が認められるべきであって、民法709条にかかる違法な侵害を不法行為と評価することを拒むものと解すべき根拠は存しない。

ところで、上記に述べたような人格的利益に関する一般理論に、その主体が映画・舞台の俳優、歌手その他の芸能人、プロスポーツ選手等(以下「俳優等」という。)大衆との接触を職業とする者である場合には多少の修正を要するものと考えられる。

何故ならば、前記のような人格的利益は、それがアメリカ法においてはプライヴァシー法の一環として論じられていることからも明らかなとおり、人が自己の氏名や肖像の公開を望まないという感情を尊重し、保護することを主旨とするものであるが、俳優等の職業を選択した者は、もともと自己の氏名や肖像が大衆の前で公開されることを包括的に許諾したものであって、上記のような人格的利益の保護は大幅に制限されると解しうる余地があるからである。それだけでなく、人気を重視するこれらの職業にあっては、自己の氏名や肖像が広く一般大衆に公開されることを希望若しくは意欲しているのが通常であって、それが公開されたからといって、一般市井人のように精神的苦痛を感じない場合が多いとも考えられる。以上のことから、俳優等が自己の氏名や肖像の権限なき使用により精神的苦痛を被ったことを理由として損害賠償を求め得るのは、その使用の方法、態様、目的等からみて、彼の俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合、その他特段の事情が存する場合(例えば、自己の氏名や肖像を商品宣伝に利用させないことを信念としているような場合)に限定されるものというべきである。

しかしながら、俳優等は、上記のように人格的利益の保護が減縮される一方で、一般市井人がその氏名及び肖像について通常有していない利益を保持しているといいうる。すなわち、俳優等の氏名や肖像を商品等の宣伝に利用することにより、俳優等の社会的評価、名声、印象等が、その商品等の宣伝、販売促進に望ましい効果を収め得る場合があるのであって、これを俳優等の側からみれば、俳優等は、自らかち得た名声の故に、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させうる利益を有しているのである。ここでは、氏名や肖像が、上記で述べたような人格的利益とは異質の、独立した経済的利益を有することとなり(上記利益は、当然に不法行為法によって保護されるべき利益である。)、俳優等は、その氏名や肖像の権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、上記経済的利益の侵害を理由として法的救済を受けられる場合が多いといわなければならない。』

AK

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2025年6月21日土曜日

Biz/『”日本版フェア・ユース”~新30条の4の規定~の導入』

 

『”日本版フェア・ユース”~新30条の4の規定~の導入』

 

30条の4の規定

 

平成30年法改正により“日本版フェア・ユース規定”が導入されました。新設された法30条の4がそれです。もっとも、日本の諸事情が勘案された結果、米国型のいわゆる「非常に柔軟性の高い一般的・包括的なフェア・ユース規定」ではなく、「明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せ」を前提とした「柔軟性のある権利制限規定(フェア・ユース規定)」を設けることで、情報通信技術の進展等の時代の変化に柔軟に対応することとしました。

 

まず、新設の条文(30条の4)を見てみましょう。「見出し」は、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」です。

 

『著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(1) 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合

(2) 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。)の用に供する場合

(3) 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合』

 

上記の規定を端的に言うと、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない利用行為」は、その必要と認められる限度において、原則として、すべて許容する(一般大衆の自由利用を広く認める)、というものです。

本条に掲げられている1号から3号は、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」の「例示」であって、これら以外であっても「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」と評価できる場合であれば、広く適用されうるということです。

 

導入の立法趣旨

 

書籍や漫画、音楽、映画、ソフトウェアなどの著作物が社会で「利用」されるのは、通常、人がその知覚によって当該著作物の表現を認識すると同時に、その利用によって自己の知的・精神的欲求が満たされるという効用が得られるからです。つまり、著作物が有する経済的価値というものは、通常、市場において著作物の視聴等をする者が当該著作物に表現された思想又は感情を享受してその知的・精神的欲求を満たすという効用を得るために対価の支払をすることによって具現化されると考えられます。そうだとすれば、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為」については、そもそもそれを許容しても、著作権者の市場における対価回収機会を損なうものではなく,著作権者の経済的利益を害するものではないと評価することも可能です。そこで、新設の法30条の4は、著作物は、技術の開発等のための試験の用に供する場合(1)、情報解析の用に供する場合(2)、人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合(3)その他の「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」(=「非享受目的の場合」)には、その必要と認められる限度において、利用することができることとしました。

 

本条は、通常は著作権者の市場における対価回収機会を実質的に損なわない利用行為であるにもかかわらず、形式的には権利侵害となってしまう一定の行為を幅広く権利制限の網にかけよう(権利制限の対象とする)という趣旨で整備されました。ただし、デジタル化・ネットワーク化の進展等による時代の変化への柔軟な対応を加味した「柔軟な権利制限規定(抽象度を高めた権利制限規定)の整備」を図る趣旨であっても、一方で、著作権者の利益(経済的利益)を不当に害することは法目的(1)に照らして許されません。そこで、技術の進展等によって市場で現在想定されていないような新たな利用態様が現れる可能性があること等を踏まえ、「著作権者の利益が不当に害されることとなる場合は,この限りでない」との但書を設けているのです。本条但書に該当するか否かは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか否か、将来における著作物の潜在的販路を阻害するか否かといった観点から、最終的には司法の場で個別具体的に判断されることになります。

 

条文解説その1

 

それでは、条文の中身(文言)をもう少し詳しく見ていきましょう。

新設の法30条の4は、「非享受目的の場合」すなわち「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に適用されるのですが、ここで「享受」とは、一般的には(辞書的な意味では)、「精神的にすぐれたものや物質上の利益などを、受け入れ味わいたのしむこと」(広辞苑)を意味します。したがって、ある利用行為が当該「享受」を目的とする行為に該当するか否かは、前述した本条新設の立法趣旨と、「享受」の一般的な語義を踏まえて判断されることになります。

 

<具体例>

〇「美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為」⇒非享受目的の利用行為に該当(理由:かかる利用行為は、通常、画像の歪みのなさや色合いの再現性等、開発中のカメラ等が求められる機能・性能を満たすものであるか否かを確認することを専ら目的として行われるものであり、当該著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないと考えられるから)

〇「複製に適した和紙を開発するために美術品を試験的に複製する行為」⇒非享受目的の利用行為に該当(理由:かかる利用行為は、通常、インクや金箔の見え方や耐久度等、開発対象の和紙が求められる機能・性能を満たすものであるか否かを確認することを専ら目的として行われるものであり、当該著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないと考えられるから)

 

本条では「享受の目的がないこと(非享受目的)」が要件となっているため,仮に主たる目的が 「享受」のほかにあったとしても,同時に「享受」の目的もあるような場合には,本条の適用はないものと解されます。

 

<具体例>

×「漫画の作画技術を身につけさせることを目的として、民間のカルチャー教室等で手本とすべき著名な漫画を複製して受講者に参考とさせるために配布したり、購入した漫画を手本にして受講者が模写したり、模写した作品をスクリーンに映してその出来映えを吟味してみたりするといった行為」⇒適用外(自由利用は不可)(理由:たとえその主たる目的が作画技術を身につける点にあると称したとしても、一般的に同時に「享受」の目的もあると認められるから)

 

「享受を目的としない(非享受目的の)」利用行為であるか否かの認定では、利用者の「主観に関する主張」のほか、利用行為の具体的態様や当該利用に至る経緯等の「客観的・外形的な状況」も含めて総合的に考慮されるものと解されます。

 

<具体例>

×「人を感動させるような映像表現の技術開発目的であると称して多くの一般人を招待して映画の試験上映会を行うような場合」⇒適用外(自由利用は不可)(理由:その客観的・外形的な状況を踏まえると、当該映画の上映を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けて上映行為が行われていると考えられるから)

 

新設の法30条の4は、営利目的で著作物を利用する場合も含めて、幅広く権利制限を認めています。そのため、とりわけ著作物の表現に対して「人の知覚による認識を伴う」場合には、当該「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない」利用行為に該当するか否かは,以上のように、本条の立法趣旨及び「享受」の一般的な語義を踏まえたうえで、利用行為の具体的態様や当該利用に至る経緯等の「客観的・外形的な状況」も含めて、慎重に判断される必要があると解されます。

 

条文解説その2

 

これまで述べてきたように、新設の法30条の4は、その柱書において非享受目的の著作物利用を広く権利制限の対象としつつ、そのような利用行為についての予測可能性を高めるため、1号から3号において非享受目的の利用行為として典型的に想定される場合を例示することとしています。

 

(1) 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合

 

著作物の利用行為として、例えば、企業が録画機器を開発するに当たって、実際に映画等の著作物を素材として録画することが行われる場合があります。このような著作物の利用に係る技術開発ないし実用化における試験利用は、通常、著作権者の経済的利益を不当に害するものではありませんが、形式的には違法(著作権侵害)であり、民事責任等に問われるおそれがあります。しかしながら、デジタル・ネットワーク化の進展に伴い、著作物の利用行為が飛躍的に多様化している昨今の情勢に鑑みれば、このような利用行為まで規制することは、著作物の「公正な利用」(1条)とのバランスを図るという法目的に照らして妥当ではありません。

 

本号は、「著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する」場合に適用されますが、ここで、「録音」「録画」はあくまで例示として規定されたもので、著作物の利用に関する技術であれば、録音技術・録画技術に限らず、広く本号の対象となるものと解されます。「その他の利用に係る技術」としては、例えば、著作物の送信や通信に関する技術、上映に関する技術、視聴や再生に関する技術、翻訳や翻案に関する技術等が想定されます。なお、「技術の開発又は実用化のための試験の用に供する」とあるのは、技術の開発のための試験や、技術の実用化のための試験における検証のための素材として著作物を利用できることを意味します。

 

<具体例>

〇「テレビ番組の録画に関する技術を開発する場合に、技術を検証するため、実際にテレビ番組を録画してみる行為」⇒本号に該当

〇「3D(三次元)映像の上映に関する技術を開発する場合に、技術を検証するため、3D映像が収録されたBlu-ray Discを上映してみる行為」⇒本号に該当

〇「OCR(光学式文字読取装置)ソフトウェアを開発するに当たり、ソフトウェアの精度の向上を図ったり、性能を検証したりするため、小説や新聞をスキャン(複製)してみる行為」⇒本号に該当

〇「スピーカーを開発する場合に、性能を検証するため、流行している様々なジャンルの楽曲を再生してみる行為」⇒本号に該当

×「上映技術の試験の用に供するという目的で、断続的に、広く観客を集めて、全編にわたって映画を上映する行為」⇒本号に該当しない

×「企業において、例えば、開発中の新たなコピー機の試験複製ということではなく、コピー機の技術開発を検討する際に参考にするとの名目で、技術者等に対して広く論文等を複製し、頒布する行為」⇒本号に該当しない

 

条文解説その3

 

(2) 情報解析の用に供する場合

 

*「情報解析」とは、「多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うこと」を意味します。

 

本号は、「情報解析」を行うことを目的とする場合を例示として掲げていますが、「電子計算機による情報解析」といった限定がない点に注意する必要があります。つまり、「人の手で行われる情報解析」であっても、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としないものであれば権利制限の対象とされるべきであるため、「電子計算機による」という限定を意図的に設けていないのです。

 

<具体例>

〇「深層学習(ディープラーニ ング)の方法による人工知能の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する場合」⇒本号に該当

 

(3) 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

 

本号は、「著作物の表現について人の知覚により認識されることを伴わない利用に供する場合」を掲げており,当該場合の典型例として想定される「電子計算機による情報処理の過程における利用」を例示する規定振り(この典型例もあくまで「その他の利用」の1つ)となっています。

 

<具体例>

〇「コンピュータの情報処理の過程で、バックエンドで著作物がコピーされて、そのデータを人が全く知覚することなく利用される場合」⇒本号に該当

〇「プログラムの調査解析を目的とするプログラム著作物の利用(いわゆる「リバース・エンジニアリング」)⇒本号に該当(理由:リバース・エンジニアリングは、プログラムの実行などによってその機能を享受することに向けられた利用行為ではないと評価できるから)

 

なお、「プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機における実行を除く」とされているのは、「表現と機能の複合的性格を持つプログラムの著作物については、対価回収の機会が保障されるべき利用は、(たとえ人の知覚により認識されることを伴わないものであっても)プログラムの実行などによるプログラムの機能の享受に向けられた利用行為であると考えられる」からです。

 

条文解説その4

 

以上、新設の法30条の4の1号から3号を含めて、本条の権利制限の対象となる著作物について、「公表された著作物」に限定されていない点に注意してください。最近では,例えば、ビッグデータを用いた情報処理技術の開発のためにネット上の情報を大量に収集して試験に用いるといった新たな手法に対するニーズも高まってきており、そのような場合に、利用しようとする送信可能化された情報が「公表」要件を満たすか否か等の確認を行うことは現実問題として実際的には困難である一方、未公表著作物を特定の試験に用いたとしても、当該著作物の未享受目的の利用に限定されば、直ちに著作権者の経済的利益を不当に害することにはならないと考えられるため、「公表された著作物」に限ることとはしていないのです。

 

最後に、1号から3号を含めて、本条の権利制限の対象となる利用行為については、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」とされている点に留意してください。利用方法を問わないのですから、「複製」に限らず、「公衆送信」や「譲渡」「上映」、「翻訳」「翻案」等の二次的著作物の創作、これにより創作された二次的著作物の利用など、著作権(著作財産権)の支分権の対象となる行為はすべて権利制限の対象となります。

 

<具体例>

AI(人工知能)の開発において、自ら人工知能の開発を行うために著作物を学習用データとして収集して利用する場合のみならず、「自ら収集した学習用データを第三者に提供(譲渡や公衆送信等)する行為」についても、当該学習用データの利用が人工知能の開発という目的に限定されていれば、本条に該当する(もっとも,当該利用(譲渡や公衆送信等)は,あくまで「必要と認められる限度において」行われるものでなければならない)

AK

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Biz/『著作権法の”公衆”はややこしい!?』

 

『著作権法の”公衆”はややこしい!?』

 

著作権法において「公衆」という概念は、著作者人格権や著作権(著作財産権)の効力にかかわる非常に重要なものです。例えば、著作者人格権の1つである「公表権」は、未公表著作物を「公衆」に提供又は提示する際に問題となる権利ですし(181)、同じく「氏名表示権」は、著作物の原作品の他に、その複製物の「公衆」への提供又は提示の際に問題となる権利です(191)。一方、著作権(支分権)について見てみると、いくつかの支分権では「公に」利用する場合に限り権利が及ぶものと規定されていますが、この「公に」というのは、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」(22)という意味であり、ここでも「公衆」の概念が登場してきます。

ちなみに、「公に」利用する場合を射程範囲にする著作権(支分権)は、次のとおりです:

〇 上演権・演奏権(22)

〇 上映権(22条の2)

〇 公の伝達権(232)

〇 口述権(24)

〇 展示権(25)

もっとも、上記以外の著作権(支分権)、すなわち、公衆送信権(231項、217号の2)、頒布権(26条、2119)、譲渡権(26条の21)、貸与権(26条の3)においても「公衆」との関係性が決定的な意味を持っています。

こうして見てくると、直接的に「公衆」と係わらない権利は、著作者人格権では「同一性保持権」(201)、著作権(支分権)については「複製権」(21条、2115)と「翻案権」(27)だけということになります。

 

それでは、「公衆」とは何でしょうか(誰でしょうか)著作権法では、「この法律にいう『公衆』には、特定かつ多数の者を含むものとする」という規定(25)があります。この規定は、例えば、CDレンタル店の経営者が「会員(特定多数の者)だけに貸し出しているので、不特定の者に向けたものではない。したがって、貸与権は侵害していない」といった抗弁を封じるためのものです。「公衆」を「特定多数の者」に限定する趣旨ではありません。

「公衆」とは、「不特定の者(不特定の1人又は多数)」又は「特定多数の者」を意味します(何人以上なら「多数」かについては、著作物の種類やその利用態様によって一概にはいえません。)。「不特定」でも「特定多数」でもない「特定少数の者」(「特定の1人」も当然にここに含まれます。)は、著作権法上の「公衆」に該当しません。利用行為の対象がたとえ「1人」であっても、「誰でも相手にする」「誰にでも提供する」といったような態様で利用行為が行われる場合には、結局「不特定の者」を相手にすることになりますので、その「1人」に対する利用行為は、「公衆」に対してなされたものと解されます。例えば、1人しか入れないような大きさの「個室」を用意して、その中で市販のビデオやDVDを「上映」するような場合、その「個室」が特定少数のために用意されたものではなく、「一定の料金を支払えば誰でも利用できる」態様で提供されていれば、その個室内での上映行為は、「公衆」に対して向けられたものであると評価され、したがって、そのような利用行為を著作権者(上映権者)に無断で行えば、上映権を侵害することになります。一方、例えば、話題の新刊本をさっそく入手した者が、友人(特定の1)に対し「君にだけ貸してあげる」と言って、その書籍を渡す行為(貸与行為)は、たとえそこにいくらかの金銭のやり取りがあっても(例えば、借りる相手が「ただじゃ悪いから、100円で1週間借りるね」と申し出て、この申し出を受け入れた場合)、「公衆」に向けられたものとは評価できません(新刊本の著作権者に無断でこのような行為がなされても、貸与権の侵害には当たらない)。友人の誰からでも貸して欲しいとの申し出があれば貸す用意があり(例えば、まわりに「誰か読みたい人がいれば貸してあげるよ」と言っていた場合に)、実際にその中の1つの申し出に応じて書籍を渡せば(貸与すれば)、もはや「特定の1人向け」とは言えず、公衆向けとなって、その行為(貸与)は、かりにそれが無償で行われても、権利者に無断で行われたものであれば、貸与権を侵害することになります。

 

以上のように、ある著作物の利用行為の相手が「公衆」に当たるかどうかは、著作権法上、少々ややこしいところがあり、実際の裁判の場面でも、この点が大きな争点となる場合があります。

AK

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Biz/『AIによって生成される作品は著作権によって保護されるか~わが国の考え方~』

 

AIによって生成される作品は著作権によって保護されるか~わが国の考え方~』

 

以前、私は、『AIによって生成される作品は著作権によって保護されるか』という記事を書きました。この記事は、「2023(令和5)427日現在の情報」をもとに執筆したものですが、この記事の中で、私は、アメリカ連邦著作権局が示した実務上の運用(法解釈)を紹介しながら、当該問題に関する私見を述べました。その後、わが国においても、令和5年6月にまとめられた『令和5年度著作権セミナー AIと著作権』(以下、「本セミナー」といいます。)の中で、“AI生成物は「著作物」に当たるか・著作者は誰か”という論点について、わが国の考え方(指針)が示されましたので、今回は、その要点を解説します。

 

結論からいいます:

 

AIが自律的に生成したものは、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられます。これに対して、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。』

そして、

『人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断されます。』

 

以上が、“AI生成物は「著作物」に当たるか・著作者は誰か”という問題に対してわが国が示した指針です。

この考え方は、著作権法の専門家であれば、ある程度想定された指針(解釈)だったと思います**

**() 私も以前の記事で、次のように書いています:

『問題の核心は、人間がAIを含めて技術的な道具(ツール)を使って生み出した素材やコンテンツを、どのような場合に「人間が創作的に表現したもの」として保護するべきか、という点なのです。ここからは私見ですが、AIがそこでアウトプットされる最終生成物の「創作的な素材(要素)」(ここで、「創作的な素材(要素)」とは、人間が作成したならば、「著作物」の範疇に入る程度の創作性のある表現物を意味します。)を決定(制御)している場合には、そのような素材(要素)は人間の創作にかかるものではありません。したがって、そのような素材(要素)を著作権によって保護することはできないでしょう。一方、AIによってアウトプットされる最終生成物に人間が創作的に関与(介在)した、又は、その最終生成物の生成過程の全体を人間が創作的に制御(コントロール)できたというような事情があれば、そのような最終生成物は「人間の創作にかかる」ものとして著作権によって保護されてよいと思います。』

 

もう少し、具体的に見ていきましょう。

 

AIが自律的に生成したものは、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しな

いと考えられます。』

例えば、「人が何ら指示(プロンプト等)を与えず(又は簡単な指示を与えるにとどまり)「生成」のボタンを押すだけでAIが生成したもの」は、「著作物」に当たりません。

 

一方、

 

『人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。』『人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断されます。』

ここで、「創作意図」とは、「思想又は感情を、ある結果物として表現しようとする意図」を指します。この点、『創作意図は、生成のためにAIを使用する事実行為から通常推認しうるものであり、また、具体的な結果物の態様についてあらかじめ確定的な意図を有することまでは要求されず、当初の段階では、「AIを使用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物を作る」という程度の意図があれば足りると考えられます。』と解説されています。

 

実際どのような行為が「創作的寄与」と認められるかについては、今後、裁判例等を通じて個々の事例に応じて判断することが必要になるものと考えられますが、「生成のためにAIを使用する一連の過程を総合的に評価」する必要があると考えられています。

AI生成物の著作物性と創作的寄与の関係については、AI技術の進展に注視しながら、具体的な事例に即して引き続き検討していくことになるでしょう。本セミナーは、『今後、この「創作的寄与」についても、文化庁として考え方を整理し、周知を進めていきます。』と締めくくっています。

AK

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