著作権法第61条(著作権の譲渡)3/3:
▽「特掲」(2項)の意義
著作権の譲渡契約において二次的著作物に対する原著作者の権利(27条、28条)が譲渡の目的として「特掲」されていないときは、これらの権利は譲渡人(著作権者)に留保されたものと推定されます(本条2項)。著作権の譲渡が直ちに著作権の全部譲渡を意味するものとすると著作権者の保護に欠けるおそれがあり、また、将来どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著作物の創作及びその経済的利用に関する権利について、譲渡時に譲渡人(著作権者)の側に、そのすべてを相手方に譲渡するという明白な譲渡意思があるものとは通常言い難いことから、二次的著作物に対する原著作者の権利(27条、28条)については、これを譲渡する旨の「特掲」がない限り譲渡人に留保されている、つまり、当該権利は相手方に譲渡されていないと推定されます。
例えば、「小説Aにかかる著作権は、これをBに譲渡する」という譲渡契約がなされた場合であっても、Bは小説Aを印刷・出版等することはできますが、小説Aを「映画化」したり、「翻訳」しようとするときは、当該契約において「映画化権」・「翻訳権」(ともに27条の権利)が「特掲」されていないため、別途 、著作権者からこれらの利用行為(映画化、翻訳)の許諾(利用権)を得るか、当該権利(映画化権、翻訳権)を譲り受けるかする必要があります。
ここで、「特掲」されていると言えるためには、単に「すべての著作権を譲渡する」とか、「一切の権利を譲渡する」という表現では足りないと解されるおそれがあります。少なくとも「著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を譲渡する」といった程度の文言を用いて、契約書に明記する必要があるでしょう。実務上しばしば問題となるところですので、十分注意してください。
本条2項については、以前より、その存置の必要性が議論されているところです。本規定のような存在は「譲渡契約の解釈について事後的に当事者間のトラブルを招く原因になりかねない」といった意見や、「著作権法の単純化の観点から廃止するべきだ」等といった意見があるようですが、「現状においては、本規定のみを直ちに廃止するための法改正を行うことは適当ではない」(『平成18年文化審議会著作権分科会報告書』)との一応の結論が出されています。ただ、この議論については流動的であり、今後、本規定が廃止される可能性がないとは言えません。
▶「未知の利用方法」に係る契約(譲渡契約・利用許諾契約)について
契約当事者が契約締結時に予見しえなかった著作物の利用方法(「未知の利用方法」)が当該契約の対象に含まれるか否かについて問題となる場合があります。この問題に関して、”著作権者は弱者である”との前提に立って、対象となる権利(利用方法)を限定的に解釈するべきだとの立場があります。ここでは、著作者は、自己の著作物から引き出されるあらゆる経済上の利益に関与できるようにするべきであり、著作者に十分に報いることなく他人が著作物の利用から利益を獲得することは、公平の観念に反すると同時に、著作者の創作へのインセンティブを削ぐ結果となり、ひいては文化を享受せんとする公共の利益を損なう、という見地から、未知の利用方法を目的とする契約は無効であるとか、そのような利用方法は対象権利から除いて解釈するべきだといった方向に向かう傾向があります。これに対し、すべてのケースにおいて“著作権者は弱者である”との前提で出発することは必ずしも適切ではない(実情に合致しない)と考える立場があります。例えば、大企業や、個人であっても力(影響力)のある者が著作権者として契約の一方当事者である場合も少なくなく、契約の実態は千差万別であるから、個々の契約の実態を踏まえた上で、個別具体的なケースごとに検討するのが適切であると考えます。ここでは、当事者が契約締結時に予見しえなかった未知の利用方法が契約の対象に含まれるか否かは、一律に決せられるものではなく、個別具体的な事案ごとに契約の解釈問題として扱えば足りるという方向に向かいます。
未知の利用方法に関する契約については、私的自治の下、契約当事者の意思に任せるべきだと思います。その意思が明確でなく、後に問題が生じた場合には、裁判所が、それぞれの個別具体的な事案に即して、契約全般に妥当する民法の一般原則を用いながら、合理的な意思解釈を行いつつ一定の結論を導けば足りると考えます。少なくとも現時点において、著作権法に特別な規定を設けて、何らかの手当てをする必要はないと思います。
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