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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年6月17日火曜日

判例/デザイン書体の著作物性

 

デザイン書体の著作物性

▶昭和540309日東京地方裁判所[昭和49()1959]

デザイン書体は、一般に、専ら美の表現のみを目的とする純粋美術の作品とはいえず、また、通常美術鑑賞の対象とされるものでもない。すなわち、文字は、元来、情報伝達のための実用的記号(の一種)であるところ、デザイン書体は、かかる事実を前提に情報伝達という実用的機能をにない、かつ、当該機能を果すために使用される記号としての文字に、美的形象を付与すべくデザインしたものであつて、そのこと自体から、実用に供されることを目的とするものということができる。デザイン書体のうち、印刷用活字・写真植字用文字盤等大量生産を予定する実用品に直接応用されることを目的とてデザインされるタイプ・フエイスにおいては、実用品との関連性は極めて直接的であるが、一応これら実用品との直接的関連をはなれて、抽象的に記号としての文字にデザインを施す場合にも、その本質においてはなんらの差異も認められない(なお、デザイン書体が応用美術の分野に属するものであること自体は、原告も自認するところである。)。

著作物性を肯定されることのある「書」及び「花文字」も、文字を素材とする美的作品であるという点においては、デザイン書体と異るところがない。しかし、「書」についていえば、文字が毛筆で書かれているからといつて、ただそれだけで著作物性を取得するわけではない。専ら美の表現を目的として書かれ、美術的書となつて、はじめて美術の著作物として保護されるのである。そして、美術的書においては、たしかに文字が書かれてはいるが、それは情報伝達という実用的機能を果すことを目的とせず、専ら美を表現するための素材たるに止まり、そのことによつて、通常美術鑑賞の対象とされるのである。ことは「花文字」についても同様である。文字に装飾が施され、社会的には「花文字」といわれるものであつても、それが書籍のテキスト等に使用され、情報伝達のための実用的記号として機能するものであるかぎり、いまだ著作物とはいえず、絵画ともいえる程度にまで達し、通常美術鑑賞の対象とされるに及んで、はじめて美術の著作物として保護されるものというべきである。そして、ここに至れば、その文字は実用的記号としての性格を喪失するのである。したがつて、「書」及び「花文字」に著作物性を肯定される場合があるからといつて、これをもつて、デザイン書体が著作物たりうることを理由づける根拠とすることは、できないものというべきである。

そして、デザイン書体が美術工芸品に該当しないことは、説明するまでもない。

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