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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年6月23日月曜日

US/『アメリカの著作権制度の解説/著作者人格権 1/3』

 

アメリカの著作権制度の解説/著作者人格権 1/3

 

    ベルヌ条約との関係

 

まずは、「著作者人格権」(Moral Rights)について規定しているベルヌ条約の条項(Article 6bis(1))を見てみましょう。

 

Independently of the author's economic rights, and even after the transfer of the said rights, the author shall have the right to claim authorship of the work and to object to any distortion, mutilation or other modification of, or other derogatory action in relation to, the said work, which would be prejudicial to his honor or reputation.

《対訳》

著作者は、その財産的[経済的]権利とは別個独立に、当該権利が移転された後においても、著作物の著作者であることを主張する権利、及び当該著作物の変更、切除その他の改変、又は当該著作物に係わるその他の毀損的行為で当該著作者の名誉若しくは声望を害するおそれのある行為に対して異議を述べる権利を有する。

 

ベルヌ条約は、現在、著作権(広義)の国際レベルでの最低限の保護水準(a minimum level of protection)を定める機能を実質的に有していると考えられます。そのベルヌ条約において、著作者が、著作権(著作財産権)とは別に、次の2つの「著作者人格権」を有することが明定されています。

① 「著作物の著作者であることを主張する権利」(the right to claim authorship of the work)

② 「当該著作物の変更、切除その他の改変、又は当該著作物に係わるその他の毀損的行為で当該著作者の名誉若しくは声望を害するおそれのある行為に対して異議を述べる権利」(the right to object to any distortion, mutilation or other modification of, or other derogatory action in relation to, the said work, which would be prejudicial to his honor or reputation)

したがって、ベルヌ条約のメンバー国は、著作者に対し、少なくとも上記2つの権利と同等の「著作者人格権」を認める条約上の義務があります。ところで、アメリカ合衆国がベルヌ条約に加盟したのは1989年のことです。このベルヌ条約への加盟により、アメリカにおいても、その連邦レベルで、著作者に「著作者人格権」を認めることが要請されました。

 

▽「視覚芸術家権法」(the Visual Artists Rights Act of 1990)の制定

 

1989年のベルヌ条約への加盟を契機として、「ベルヌ条約執行法」(the 1988 Bern Convention Implementation Act)とは別に、「視覚芸術家権法」(the Visual Artists Rights Act of 1990: VARA)が制定されました。

VARAは、アメリカにおいて「著作者人格権」(moral rights)による保護を認めた初めての連邦法です。連邦著作権法106A条は、この1990年の視覚芸術家権法によって追加された条項です。ベルヌ条約は、その同盟国(メンバー国)における著作者人格権の保護を要請しているところ、連邦議会によるVARAの制定は、まさに、この要請に応えたものでした。

 

ここで、VARAが制定される以前はどうであったか、について簡単に言及しておきます。

VARAの制定以前は、連邦法レベルでは著作者に係わる「人格権」は認められていませんでしたが、連邦制を採用するアメリカ合衆国においては、いくつかの州では、すでに、立法を通じて、一定の範囲内ではあるものの、著作者に対する人格権的保護が承認されていました。VARAの制定以前、9つの州で、程度の違いこそあれ、著作者の人格権を保護する立法が行われていたとされています。

著作者の人格権は、また、州の不法行為法、プライバシー法及びパブリシティ法、連邦制定法であるランハム法(the Lanham Act;商標法)の規定(もっとも、ランハム法を「人格権の代用法」(a substitute for moral rights)として使うことには、当時慎重な意見が多かったようです。)、並びに連邦著作権法における二次的著作物に対する著作者の排他独占的権利に関する規定(106(2))等によっても、間接的に保護されていました。

著作者の人格権的利益を保護する判例理論としては、契約理論や不正競争法理論、著作権法理論を用いるものが有力であったようです。

 

《参考:契約理論を用いて著作者の人格権的利益を保護する構成の例》

例えば、ジャズフェスティバルでのコンサートの模様をすべて録音してCD発売する契約が演奏家(著作者)**とレコード制作会社との間で取り交わされていた場合に、実際に発売されたCDに本来のクレジットライン(credit line)が表示されておらず、しかも、60分の演奏時間があったにもかかわらず発売されたCDでは最初の10分間の演奏がオミット(省略)されていたような事例では、「本来のクレジットラインの非表示」(氏名表示権侵害に相当)及び「最初の10分間の演奏のオミット」(同一性保持権侵害に相当)を「契約違反」(breach of contract)と評価することで、結果として、演奏家(著作者)の人格権(氏名表示権ないし同一性保持権)的利益を保護することになる。

**アメリカの連邦著作権法には“著作隣接権”という概念はありません。

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