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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年7月5日土曜日

条文/著作権法第114条(損害の額の推定等)2/2

 

著作権法第114(損害の額の推定等)2/2

 

《令和5年法改正後の法114条の条文》

1 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第1号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。

<ⅰ(1)> 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額

<ⅱ(2)> 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。

3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。

4 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法第2条第1項に規定する管理委託契約に基づき著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第13条第1項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。

5 裁判所は、第1項第2号及び第3項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、著作権者等が、自己の著作権、出版権又は著作隣接権の侵害があつたことを前提として当該著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなるその対価を考慮することができる。

6 第3項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

 

令和5年法改正の趣旨

 

著作権法は、従来より、著作権等が侵害された際に著作権者等が請求できる損害額について、民法709条の特則規定として、法114条に賠償額の算定規定を設け、著作権者等の損害額の立証の負担を軽減する措置を採ってきました。

ところが、近年、海賊版サイトによる被害が深刻になっており、特にマンガに関する海賊版被害については、深刻な状況が続いています。かかる海賊版被害に対する損害賠償請求については、侵害者が権利者の販売等能力を大幅に超えて利益を得ている例が多いといった指摘や、使用料相当額として認定される賠償額が低くなり、侵害による高額の利益の大部分が侵害者に残存しているといった指摘など、いわゆる「侵害し得」が生じているという指摘があります。

そこで、深刻化する著作権侵害に対し、権利者の被害回復の観点から実効的な対策を取れるよう、令和5年の法改正によって、以下の点について、損害賠償額の算定方法の見直しがを行われました(令和611日から施行)

①著作権者等の販売等能力を超える等の部分についてライセンス料相当額を損害額に加えることができるようにする(侵害者の売上げ等の数量が、権利者の販売等の能力を超える場合等であっても、ライセンス機会喪失による逸失利益の損害額の認定を可能とする)(11412号関係)

②ライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害を前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する(損害額として認定されるライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する)(1145)

 

▽ 侵害者の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定

 

改正の趣旨

 

従前、法114条第1項は、侵害者により販売された数量(譲渡等数量)に正規品の本来の1個当たりの利益額(著作権者等の単位数量当たりの利益額)を乗じた額を損害額とし、ただし、著作権者等の販売等を行う能力に応じた数量を超える数量及び著作権者等が販売することができないとする事情に相当する数量がある場合には、これらの数量に応じた額は損害額から控除されるものとしていました。そして、その際、当該控除された部分について、法114条3項が規定するライセンス料相当額分(「著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」)の賠償が認められるか否かは、条文上明らかではなく、裁判実務上も判然としませんでした。そのため、権利者への十分な賠償、侵害の抑止、訴訟当事者の予見可能性等の観点から立法的解決の必要性が大きくなりました。

そこで、権利者が自ら実施すると同時に権利をライセンスして利益を得ることができるという知的財産の性質に鑑み、このような場合に当該ライセンス料相当額を請求できることを明記するための改正が行われました。具体的には、新114条1項1号において、法114条1項の算定方法により算出した損害額(販売数量減少による逸失利益)を規定し、新114条1項2号において、侵害者の譲渡等数量のうち権利者の販売等能力を超える数量又は販売することができない数量に応じたライセンス料相当額(ライセンス機会喪失による逸失利益)を規定し、これらの合計額を新114条1項により算定される損害額としました。

なお、法114条2項は、侵害者の利益の額を損害額と推定するとしていますが、裁判実務では、第1項の場合と同様に、権利者の販売等の能力を超える部分等については第2項の推定が覆滅される扱いとなっていました。そのため、今後は、第2項による推定覆滅部分についても、新114条1項と同様に、当該部分に応じたライセンス料相当額が損害額として認められると解釈されるものと考えられます。

 

条文の文言解釈

 

〇 新114条1項1号において販売数量減少による逸失利益を規定し、同2号においてライセンス機会喪失による逸失利益を規定し、これらの合計額を同項により算定される損害額として規定することとしています。同項の適用場面は、改正前と同様、侵害者の譲渡行為又は侵害行為を組成する公衆送信があったときであることを柱書において明記しています。

〇 1号は、改正前において損害の額とすることができると規定されている販売数量の減少に伴う逸失利益を定めるもので、その規定の内容自体は、改正前の114条1項と同様です。

※「販売その他の行為を行う能力に応じた額」(改正前)→「販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量」(改正後):新設2号のライセンス機会喪失による逸失利益は、ライセンスという 「販売」以外の方法により得られたはずの利益を内容としているところ、「販売その他の行為」と規定すると、ライセンスすることを含みうるため、2号の規定内容と重複するものとして解釈される懸念があることから、販売等能力は、あくまで、販売そのものに向けられた能力であることを明確にする観点から、規定上の文言を「販売のために必要な行為を行う能力」に改めました(改正前と意味内容は実質的に変わらない)。ここで、「販売のために必要な行為を行う能力」とは、侵害された著作物等を「販売する能力」のほか、その著作物等を「生産する能力」等、販売行為に至る種々の能力を意味すると解さされます(例えば、人員や流通経路の確保など販売体制を確立する能力や、生産設備を立ち上げる能力など)

※「著作権者等が販売することができないとする事情」とは、①代替品の存在、②販売市場の相違、③侵害者の営業努力、④侵害品固有の顧客吸引力など、著作権者等の譲渡等数量に影響を与える事情のうち、「販売のために必要な行為を行う能力」以外のすべての事情を意味すると解されます。

〇 2号は、ライセンス機会喪失による逸失利益として、販売等相応数量を超える数量や特定数量に応じたライセンス料相当額を損害の額として定めるものです。本号において「著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。」と定めたのは、ライセンス機会を喪失したといえない場合にまで、ライセンス料相当額を損害額と擬制することは適切ではないためです。例えば、正規品にはない付加要素が大きい場合に、元の著作物等それ自体では当該付加要素は得られず、当該付加要素があってはじめて得られる利益があるような場合が想定できます。この場合、「はじめて得られる利益(当該付加要素による利益部分)」の発生には、元の著作物等は貢献しておらず、元々ライセンスの機会はなかったと考えられます。このような場合、当該付加要素による利益部分についてまでライセンス料相当額を損害額と擬制することは、元の著作物等が貢献していない部分(元々ライセンスの機会がなかった部分)についてまで損害の填補を認めることになり適切でないと考えられます。

※「著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合」の具体例:

例えば、侵害者が元の著作物を無断で利用して書籍を作成・販売したが、当該書籍には侵害者による加筆や写真・図版の付加がされている、又は元の著作物が書籍に占める割合は一部にとどまるなどの事情により、書籍の売上げの全部が元の著作物の貢献によるものとはいえない場合等が想定されます。この例で、かり書籍の売上げに対する元の著作物の貢献が100%であれば、ライセンス料相当額は売上げの全額にライセンス料率(印税率等)を乗じて算定されますが、上記のような事情がある場合は、書籍の売上げのうち侵害者による加筆や写真・図版の付加が貢献したと評価される部分(例えば売上げの 30%)は「著作権者等が、その著作物又は実演等の利用の許諾をし得たと認められない場合」として控除され、ライセンス料相当額は、残余の売上げにライセンス料率を乗じて算定されることになります。

 

▽ ライセンス料相当額の認定に当たっての考慮要素の明確化

 

改正の趣旨

 

114条3項は、著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(ライセンス料相当額)を損害賠償額として請求できる旨が規定されていまする。

著作権侵害があった場合、ライセンス料は、権利者にとって利用を許諾するかどうかの判断機会が失われていることや、侵害者はライセンス契約上の様々な制約なく著作物を利用していること等から、通常の契約によるライセンス料より高額になることが想定されます。3項の文言上も、制定当初「通常受けるべき金銭の額」と規定してところ、平成12年の法改正の際、一般的な相場にとらわれることなく訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当なライセンス料相当額を認定できることを明確にするため、「通常受けるべき金銭の額」の「通常」の文言が削除されたという経緯があります(上述参照)。しかし、実際の裁判例においては、この改正によって訴訟当事者間の具体的事情が十分に斟酌されたライセンス料相当額が認定されるようになったか否か判然としない状況にあるとの指摘がありました。

そこで、新114条に第5項を設け、法114条1項2号及び第3項に規定する著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の認定に当たって、著作権者等が、著作権等の侵害があったことを前提として侵害者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなる対価を考慮することができることを明記しました。このように、侵害を前提とした具体的な事情が考慮できることを条文上明確にすることで、現状より法114条3項において損害額として認定されるライセンス料相当額が増額され得るという効果が期待できると考えられます。

 

条文の文言解釈

 

〇 本項では、「第1項第2号及び第3項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては」と規定しており、新114条1項2号と同条3項のいずれの規定によるライセンス料相当額の認定に当たっても、本項が適用されることになります。

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