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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年7月14日月曜日

判例/法30条1項(私的使用のための複製)の意義/書籍の電子ファイル化の代行業者の複製は「私的使用のための複製」に当たるか/「手足理論」

 法30条1項(私的使用のための複製)の意義/書籍の電子ファイル化の代行業者の複製は「私的使用のための複製」に当たるか/「手足理論」

平成261022日知的財産高等裁判所[平成25()10089]

(注)以下、「本件サービス」とは、控訴人○○が行っていた,第三者(顧客、利用者)から注文を受けて,小説・エッセイ・漫画等の様々な書籍をスキャナーで読み取り,電子ファイル化するサービスのことです。控訴人○○は,顧客から電子ファイル化の依頼があった書籍について,著作権者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し,その電子ファイルを顧客に納品していました。

 

著作権法301項は,個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があり,また閉鎖的な私的領域内での零細な利用にとどまるのであれば,著作権者への経済的打撃が少ないことなどに鑑みて規定されたものである。そのため,同条項の要件として,著作物の使用範囲を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」(私的使用目的)ものに限定するとともに,これに加えて,複製行為の主体について「その使用する者が複製する」との限定を付すことによって,個人的又は家庭内のような閉鎖的な私的領域における零細な複製のみを許容し,私的複製の過程に外部の者が介入することを排除し,私的複製の量を抑制するとの趣旨・目的を実現しようとしたものと解される。そうすると,本件サービスにおける複製行為が,利用者個人が私的領域内で行い得る行為にすぎず,本件サービスにおいては,利用者が複製する著作物を決定するものであったとしても,独立した複製代行業者として本件サービスを営む控訴人○○が著作物である書籍の電子ファイル化という複製をすることは,私的複製の過程に外部の者が介入することにほかならず,複製の量が増大し,私的複製の量を抑制するとの同条項の趣旨・目的が損なわれ,著作権者が実質的な不利益を被るおそれがあるから,「その使用する者が複製する」との要件を充足しないと解すべきである。

(略)

著作権法301項は、①「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」こと、及び②「その使用する者が複製する」ことを要件として,私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。

そして,控訴人○○は本件サービスにおける複製行為の主体と認められるから,控訴人○○について,上記要件の有無を検討することとなる。しかるに,控訴人○○は,営利を目的として,顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ということはできず,上記①の要件を欠く。また,控訴人○○は複製行為の主体であるのに対し,複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから,「その使用する者が複製する」ということはできず,上記②の要件も欠く。

したがって,控訴人○○について同法301項を適用する余地はないというべきである。

「手足理論」

▶平成261022日知的財産高等裁判所[平成25()10089]

一般に,ある行為の直接的な行為主体でない者であっても,その者が,当該行為の直接的な行為主体を「自己の手足として利用してその行為を行わせている」と評価し得る程度に,その行為を管理・支配しているという関係が認められる場合には,その直接的な行為主体でない者を当該行為の実質的な行為主体であると法的に評価し,当該行為についての責任を負担させることがあり得るということができる。

しかし,既に前記で説示したとおり,利用者は,控訴人Dが用意した本件サービスの内容に従って本件サービスを申し込み,書籍を調達し,電子ファイル化を注文して書籍を送付しているのであり,控訴人Dは,利用者からの上記申込みを事業者として承諾した上でスキャン等の複製を行っており,利用者は,控訴人Dの行うスキャン等の複製に関する作業に関与することは一切ない。

そうすると,利用者が控訴人Dを自己の手足として利用して書籍の電子ファイル化を行わせていると評価し得る程度に,利用者が控訴人Dによる複製行為を管理・支配しているとの関係が認められないことは明らかであって,控訴人Dが利用者の「補助者」ないし「手足」ということはできない。

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