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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年9月8日月曜日

条文//著作権法第91条(録音権及び録画権)

 

著作権法第91(録音権及び録画権)

 

1 実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。

2 前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。」

 

録音権・録画権の意義

 

本条は、実演家が、その実演を録音又は録画することに関して、原則として(一定の場合を除いて)、「録音権」又は「録画権」という排他独占的権利を有することを規定したものです。「録音権」・「録画権」は、実演家の財産的利益を保護するために創設された「著作隣接権」の1つです(891項・6)

 

実演家は、その実演を録音し、又は録画する排他独占的権利を有します(1)。ここで、「録音」とは、「音を物に固定し、又はその固定物を増製すること」をいい(2113)、「録画」とは、「映像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること」をいいます(2114)。つまり、「録音」・「録画」には、最初の(生の)録音・録画だけでなく、それを固定した物(録音物・録画物)を増製することを含みます**。したがって、例えば、歌手の歌を原盤レコードやオリジナルテープに吹き込む場合のほか、その吹き込まれたレコードやテープを増製する場合にも録音権が及ぶため、その増製に関しても当該歌手の許諾を得なければなりません。なお、著作権法上「録音」・「録画」は「複製」に含まれる概念ですが(2115号参照)、実演家には「複製権」という概括的な権利は認められておらず、したがって、例えば自己の実演を「写真撮影」や「スケッチ」等によって有形的に再製する者に対して本権利を行使することはできません。もっとも、その写真やスケッチの利用の仕方によってはパブリシティ権や肖像権等の侵害問題が生じる余地はありますので注意してください。

実演に関する録音権・録画権は、実演家が行った当該実演そのものを録音・録画することにのみ及び、当該実演と「類似」した実演(例えば、モノマネ)を録音・録画することに権利が及ぶことはありません。

 

**自分の「生の実演」を、ディスクやテープ、フィルムなどの有体物の固定(録音・録画)する場合はもちろん、自分の実演が「録音」されたCDや、自分の実演が「録画」されたDVDなどをコピー(録音・録画)する場合にも及びます。したがって、例えば、音楽CDをコピーする場合には、当該楽曲に係る「著作者」(作詞家・作曲家)、当該レコードの「レコード製作者」の他に、当該実演に係る歌手や演奏家などの「実演家」の許諾も必要となります。

 

いわゆる「ワンチャンス主義」

 

実演に関する録音権・録画権は、当該権利を有する者から許諾を得て映画の著作物において固定(録音・録画)された実演については、原則として及ばないとされています(912)

こういうことです。ある実演家(例えば、歌手や俳優)が自己の実演を映画の著作物に固定(録音・録画)することを許諾した場合には、その許諾を受けた者が行う当該映画の著作物の増製や二次利用(ネット配信など)については当該実演家の録音権・録画権は及ばず、したがって、その増製等についてあらためて当該実演家の許諾を得る必要はないということです。これは、映像に関する実演については、「映画の著作物への最初の固定(録音・録画)にのみ権利が及び、その後の当該映画の利用(DVD化や放送、ネット配信など)については実演家の権利が及ばない」とする考え方を採用したものです。そして、このような考え方を「ワンチャンス主義」と呼んでいます。ワンチャンス主義は、映画の著作物の製作には多くの実演家が関与していることから、その利用(録音、録画、放送、有線放送、送信可能化、譲渡)に関して画一的に処理し、後の映画の著作物の円滑な利用を確保しようとするものです。なお、ワンチャンス主義に関しては、ローマ条約19条を参照**。もっとも、例えば、その映画のサウンドトラックに固定されている音だけを取り出していわゆるサントラ盤レコード(CD)をつくる場合のように、その映画のなかの実演を、「音を専ら映像とともに再生することを目的とするもの」ではない録音物に録音する場合には本権利(録音権)が働き、あらためて実演家の許諾が必要になります。この点、注意してください。

 

** ローマ条約19(映画における実演家の権利)

Article 19(Performers’ Rights in Films)

Notwithstanding anything in this Convention, once a performer has consented to the incorporation of his performance in a visual or audio–visual fixation, Article 7(Minimum Protection for Performers) shall have no further application.

《対応訳》

この条約のいかなる規定にもかかわらず、実演家がひとたび自己の実演を視覚に係わる[映像の]固定物又は視聴覚に係わる[映像及び音声の]固定物に収録することに同意した場合には、第7(実演家に対する最低限の保護)の規定は、それ以降適用されることはない。

 

実演家には「放送権」と「有線放送権」が認められていますが(921)、実演家が自己の実演の放送又は有線放送について事業者に許諾を与えた場合でも、契約に別段の定めがない限り、当該実演の「録音」・「録画」の許諾まで与えたことにはなりません(103条準用634項参照)。したがって、一般的に、実演家がテレビ放送用の番組に「出演」を承諾したというだけでは、そのテレビ放送用の番組を固定物(ビデオテープやDVDなど)に「録音」・「録画」することまで許諾したことにはなりません。そのため、放送事業者又有線放送事業者がそのような固定物を作製し又は増製する場合には、あらためて実演家の許諾を得る必要があります。これが原則です。もっとも、実演の放送について実演家の許諾を得た放送事業者は、原則として、その実演を「放送のために」録音し又は録画することは可能です(931項本文)。なお、放送について実演家の許諾を得た放送事業者が当該実演を適法に録音・録画できる場合として、いわゆる自己の放送のための技術的手段としての一時的固定(1021項準用441)の制度があります。

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