著作権法第92条の2(送信可能化権):
「1 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。
[1] 第91条第1項に規定する権利を有する者の許諾を得て録画されている実演
[2] 第91条第2項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの」
▶ 実演家の送信可能化権
本条は、実演家が、その実演を「送信可能化」することに関して、原則として(一定の場合を除いて)、「送信可能化権」**という排他独占的権利を有することを規定したものです。「送信可能化権」は、実演家の財産的利益を保護するために創設された「著作隣接権」の1つです(89条1項・6項)。
**「生の実演」をネットでそのまま流す場合(受信者からのアクセスがあり次第送信され得る状態に置く場合)も本権利の射程範囲内です。
「送信可能化」とは、いわばインタラクティブ送信(自動公衆送信)の前段階の状態のことで、実際に自動公衆送信があったかどうかを問わず、また、複製(2項1項15号参照)行為があったかどうかを問わず、サーバーとの関係で一定の行為をすることにより実演を自動公衆送信し得る状態に置くことを意味します。「送信可能化」については、送信用コンピュータであるところのいわゆるサーバー(著作権法は、これを「自動公衆送信装置」と呼んでいます。)に入力されている情報が公衆からのから求めに応じて自動的に送信される点に着目して、サーバーとの関係においてその利用態様を規定しています。具体的には、次のような行為によって「送信可能化」が起こります(2条1項9号の5・イロ):
(イ) ネットワーク(電気通信回線)に接続されている状態にあるサーバー(自動公衆送信装置)に情報を記録・入力等(いわゆるアップロード)する行為。
(ロ) 情報が記録され又は入力された状態にある、ネットワークに接続されていないサーバーをネットワークに接続する行為。
なお、送信可能化に続く「送信行為」(自動公衆送信)には、実演家の権利は認められていません。そのため、実際の送信行為の回数に応じた使用料の支払いといったシステムを実演家が希望する場合には、送信可能化を許諾する際の契約においてその旨の条項を入れておくべきでしょう。
適法に作成された、すなわち録画権者の許諾を得て録画されている実演(2項1号)**(注1)、及び録音権・録画権を有する者(実演家)の許諾を得ずに増製することが許される映画の増製物(91条2項)に固定(録音・録画)されているものによる実演(2項2号)**(注2)の送信可能化に対しては、実演家の送信可能化権は及びません(2項柱書)。
**(注1) 「録音」されている実演については、その実演家の許諾の有無にかかわらず(実演家の許諾を得て録音されたものであっても)、送信可能化権が及ぶ点に注意してください。例えば、ある放送局が放送とネット配信に同じレコード(実演家の許諾を得て録音されたもの)を利用する場合、放送・有線放送する際にはあらためて実演家の許諾を得る必要はありませんが(92条2項2号イ)、サーバーにアップロードする際にはあらためて実演家の送信可能化権の許諾を得なければなりません。
**(注2) 実演家の了解(許諾)を得ないで映画の著作物に録音・録画された実演を用いて送信可能化する場合には、実演家の権利(送信可能化権)が働きます。なお、映画のサントラ盤を用いて送信可能化する場合は、放送権・有線放送権とは異なり、実演家の了解を得て作成されているレコード(サントラ盤)かどうかに関わらず、送信可能化権が働くことに注意が必要です(92条の2・2項)。
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