実演家に対するワン・チャンス主義(法92条2項1号の意義)
▶平成16年05月21日東京地方裁判所[平成13(ワ)8592]
著作権法92条2項1号において有線放送による放送の同時再送信の場合に実演家の著作隣接権が及ばないこととされているのは,同号の規定が実演家が放送を許諾しているかどうかを区別せずに一律に有線放送による同時再送信について権利が及ばないとしていることに照らせば,実演の無形的利用については当初の利用契約によって処理すべきものとするいわゆるワン・チャンス主義の観点から,放送の段階についてのみ権利行使を許容する趣旨であると解される。したがって,実演家は,放送事業者から十分な対価を得ていたかどうかにかかわりなく,有線放送事業者の行う同時再送信について著作隣接権に基づき二次使用料を請求することはできないものと解され(る。)
▶平成17年08月30日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10009等]
著作権法92条2項は,「放送される実演を有線放送する場合」に実演家の有線放送権は及ばない旨規定するが,同規定の趣旨は,実演家ないし実演家の団体である原告芸団協が,契約に基づき,放送の同時再送信についてその利用の対価として「補償金」を受けることを禁止する趣旨であると解することはできないから,本件各契約が著作権法に違反するものということはできない。
▶平成17年8月30日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10009等]
原判決は,著作隣接権を有しない原告芸団協と締結した本件各契約は錯誤により無効としたが,失当であり,上記のように改める。
(6)
被告らは,仮に,本件各契約が無効でないとしても,原告らの請求は,著作権法に違反するものであって認められないとも主張する。しかし,著作権法92条2項は,「放送される実演を有線放送する場合」に実演家の有線放送権は及ばない旨規定するが,同規定の趣旨は,実演家ないし実演家の団体である原告芸団協が,契約に基づき,放送の同時再送信についてその利用の対価として「補償金」を受けることを禁止する趣旨であると解することはできないから,本件各契約が著作権法に違反するものということはできない。本件各契約は,実演家・放送事業者・有線放送事業者三者間の権利関係処理の簡便化を図るという意味で一定の合理性を有するものであり,契約自由の原則からして容認できると解される。
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