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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年9月4日木曜日

判例/出版予告の掲載をもって公表権の侵害とすることはできないとした事例/「本を出版しようとする者の自己決定権」なる権利の侵害を否認した事例

 

出版予告の掲載をもって公表権の侵害とすることはできないとした事例/「本を出版しようとする者の自己決定権」なる権利の侵害を否認した事例

令和5420日東京地方裁判所[令和3()15628]▶令和6110日知的財産高等裁判所[令和5()10060]

(1) 著作者人格権(公表権)侵害の有無について

ア 公表権とは、未だ公表されていない著作物を公衆に提供し、又は提示することについての著作者の権利をいう(法181項)。「公衆に提供」するとは、著作物の性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が作成されて頒布されることをいい、公衆に「提示する」とは、上演、演奏、上映、公衆送信、口述、展示のように複製物の頒布以外の方法で公衆に示されることをいうものと解される(法41項、31項参照)。

イ 前記のとおり、本件書籍の未完成原稿は著作物として成立し、その著作者であるBがこれについて著作者人格権(公表権)を有していたと認められる。しかし、本件予告には、本件書籍の書籍名、発売予定時期、著者名、著者紹介等が示されているほか、被告の作成した本件書籍の内容を紹介する文章が掲載されているにとどまり、本件書籍の原稿に記載された文章それ自体が記載されているわけではない。

そうである以上、被告による【本件予告の被告ウェブサイトを含む各ウェブサイトへの掲載は】、Bの著作物である未完成原稿の内容を公衆に提供又は提示したものとはいえない。

そもそも、原告は、被告の自社ウェブサイトに掲載された本件予告を閲覧した上で、その誤り等の訂正を申し入れたものである。このことに鑑みると、被告による本件予告の掲載については、原告も承諾していたことがうかがわれる。

以上より、被告は、【本件予告を公表することにより】Bの著作者人格権(公表権)を侵害したとは認められない。

ウ これに対し、原告[注:Bの相続人]は、公表権は著作物の公表そのものに限らず、著作物の出版予告等その前段階の行為にも及ぶとすると共に、本件予告記載の紹介文が、本件書籍の原稿に記載されたBの武士道に関する思想を紹介したものであるから、本件予告は公表権侵害となるとも主張する。

しかし、「公表」の意義は前記のとおりであり、著作物の出版予告等までこれに含まれるとは解されない。また、Bの思想それ自体はアイデアであって著作物とはいえず、これを紹介したからといって、Bの著作物を公表したことにはならない。

したがって、本件予告の掲載をもってBの著作者人格権(公表権)の侵害とすることはできない。

そうである以上、原告は、被告に対し、本件予告につき、Bの著作者人格権(公表権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。この点に関する原告の主張は採用できない。

(2) 自己決定権侵害の有無について

原告は、被告による【本件予告の公表は】、本を出版しようとする者の自己決定権を侵害する不法行為である旨を主張する。

しかし、原告が主張する「本を出版しようとする者の自己決定権」なるものの性質、内容は必ずしも明らかとはいえず、また、これが自己決定権として法的に保護された利益といえるだけの内実を備えたものであることの主張立証もない。

そもそも、前記(1)イのとおり、被告による本件予告の掲載については、原告も承諾していたことがうかがわれる。その後、原告が被告に対し本件予告の撤回を求めたとはいえ、被告は原告に対し出版許諾契約の締結に向けた協議を要請し続け、本件訴訟において原告が被告と契約締結の意思がないことを明確に示したことを受けて直ちに本件予告を削除したことに鑑みると、この間本件予告の掲載を継続したことにつき、不法行為を成立させる違法な行為と見ることはできない。

【原告は、インターネット上に本件書籍に係る情報等が残存していると主張するが、これらの事情を踏まえても上記判断を左右しない。

なお、原告は、自己決定権について本件書籍の出版の時期等を決定する権利であると主張しているところ、原告は自らの意思により本件書籍の出版を取りやめることができているのであるから、本件書籍の出版の時期等を決定する権利が侵害されたとはいえない。

したがって、原告は、被告に対し、自己決定権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。】

(3) まとめ

以上のとおり、被告による本件予告の掲載をもって、Bの著作者人格権(公表権)又は原告の自己決定権を侵害するものとは認められないから、その余の点につき論ずるまでもなく、原告は、被告に対し、これらの権利侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。原告の本訴請求には理由がない。

[控訴審同旨]

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