『削除要請の基礎知識』
▶ 削除要請とは?~削除要請の注意点~
「削除要請」とは、侵害コンテンツ(違法複製物、海賊版コンテンツ)が掲載されているウェブサイトを運営する事業者等に対して、削除要請フォームや電子メールによる通知を通じて、任意で、侵害コンテンツをウェブサイトから削除するように求める手段のことです。ネット上で侵害コンテンツを発見した場合に実務上まず行われる手段の1つです。
削除要請は、その他の権利行使と比べて手続が簡易で、対象コンテンツが削除されたか否かを事後的に確認することも容易であることから、相対的に費用対効果が大きいと言われ、実務上よく利用されている海賊版コンテンツ対策です。その意味で、削除要請は、即効性、利便性が高い措置(対抗手段)と言えますが、一方で、リスクもあります。根拠のない削除要請は論外として、事前の侵害事実の確認ないし検討が十分でない状態で削除要請を行った結果、逆に、相手方から営業妨害等を理由に損害賠償を請求されるリスクがあるのです。したがって、侵害事実の認定等で微妙な判断を迫られる場合には、事前に専門家の意見を聞くなどして慎重に対処してください。
以上の点を踏まえると、ネット上で自分(自社)の違法複製物と疑われるコンテンツを発見した場合、第一に、それが「削除要請をしても問題ないコンテンツかどうか」の確認を行ってください。その際に、まず、検討すべきことは、そのコンテンツのアップロード(ネット掲載)が「著作権法に規定する権利制限に該当するかどうか」という点です。
自分(自社)の違法複製物がネット上に無断アップロードされている場合であっても、それが、例えば、「写り込み」(著作権法30条の2)や「引用」(同32条1項)に当たるなど、(著作権の)権利制限規定の対象となる場合には、権利行使(削除要請)の根拠を欠くことになります。この場合に削除要請をして対象コンテンツが削除されると、後に、権利制限規定に該当して適法に利用できたにもかかわらず不当に削除されたとして、営業妨害などを理由に訴訟(損害賠償請求)を提起される可能性があることは上述したとおりです。この点、実務上も裁判上も最も問題になるケースが「引用」です。「引用」に当たるかどうかは、とりわけ慎重に判断する必要があります。注意してください。
削除要請をする際に注意すべき点はいくつかあるのですが、特に注意していただきたいのが、「相手方から損害賠償請求などの対抗措置を受けるリスクがある」という点です。すなわち、事前の確認や調査、検討が不十分だったり、やり方が少々強引だったりして、相手方から、名誉毀損や営業妨害、権利濫用などの理由で、削除要請をした者が逆に訴えられるケースがあるのです。この点、特に米国においては、削除要請が言論の自由の侵害であるとして、投稿動画を削除された者が削除要請を行った者に対し損害賠償請求をする事例がしばしば見られます。そのため、削除要請をする際には、相手方から法的措置を講じられるリスクがあることを考慮して、慎重に権利行使(削除要請)の是非を判断する必要があります。
なお、わが国においても、最近(令和4年10月14日大阪高等裁判所[令和4(ネ)265等])、YouTubeにおける著作権侵害通知(動画削除要請)が不法行為に当たると認定した注目の事例がありました。以下、参考までに判決の一部を掲載します:
『YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。
また、収益化されたチャンネルにおいては、YouTubeへの動画投稿によって、投稿者は収益を得ることができるから、正当な理由なく投稿動画を削除する行為は、投稿者の営業活動を妨害する行為ということになる。したがって、この側面からも、投稿者は、正当な理由なく投稿動画を削除されないことについて、法的上保護される利益を有すると解することができる。
(略)
ところで、この制度の利用について、「YouTubeヘルプ」においては、著作権侵害通知の要件として、著作権を侵害すると考える投稿の説明に加え、通知者自身が著作権者等であること、投稿者によるコンテンツの使用が法律で許可されていないことを確信していること、通知が正確であることを確認した上でこれを行うことを求め、著作権侵害通知制度を不正使用すると、アカウントの停止や法的問題に発生する可能性があるとの注意もしているが、これは、上記のとおり、YouTubeが原則として著作権侵害の実体的判断をなさないため、著作権侵害通知が潜在的には濫用的に用いられる可能性があることから、著作権侵害通知をする者に予め注意義務を課して濫用的な著作権侵害通知をなさないよう対策を講じているものと解される。
したがって、著作権侵害通知をする者が、上記のような注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYouTubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては、当該著作権侵害通知をした行為は、投稿者の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為を構成するというべきである。
(略)
以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。』
▶ 削除要請の参考書式①
(注)ここに掲載された様式にしたがって削除要請を行えば、相手方において必ず適切な対応がなされることを保証するものではありません。
(注)”DMCA”(Digital Millennium
Copyright Act)とは、いわゆる「米国デジタルミレニアム著作権法」の略称です。これは、米国で1998年10月に制定・施行された連邦法のことで、合衆国法典第17編に収録された著作権法(17U.S.C.)などを改正する立法です。この改正法(17U.S.C.§512)によって、海賊版コンテンツがウェブサイトなどに投稿された際の「通報と削除手順」――ノーティスアンドテイクダウン(notice and takedown)――及び免責条件が明文化されました。DMCAの制定後、日本のプロバイダ責任制限法(2002年成立)やEUの情報社会指令(2001年成立)など、類似する目的の法律が世界の他の地域で制定されました。
【添付用削除要請通知(英語版)】
(注)DMCAにおいて定められる通知においては、「手書き署名」か「電子署名」のいずれかが求められます。実務上はメール本文と同内容の通知文(書面)を作成し、担当者名の手書き署名を行った上で、当該通知文をメールに添付する方法がとられる場合があります。
DATE;●●/●●●/●
DMCA Complaints
“●●●●●(対象サイト運営者名)“
“●●●●●(対象サイト運営者住所)”
“●●●●●(対象サイト運営者メールアドレス)”
Notification of Copyright Infringement
On behalf of
“●●●●●(権利者名)“, I notice you of infringement of copyright on
“●●●●●(対象サイト運営者名)” and request you to remove, or
disable access to, the material uploaded on the above web site as follows.
1.A physical or electronic signature of a person
authorized to act on behalf of the owner of an exclusive right that is
allegedly infringed:
(physical signature)
_______________________________________
On
behalf of “●●●●●(権利者名)“
2.Identification of the copyrighted work claimed to
have been infringed, or, if multiple copyrighted works at a single online site
are covered by a single notification, a representative list of such works at
that site:
“□□□(作品名)□□□“
3.Identification of the material that is claimed to
be infringing or to the subject of infringing activity and that is to be
removed or access to which is to be disabled, and information reasonably
sufficient to permit the service provider to locate the material:
File upload on
・URL : http://www.* * * *.com/* * * * “△△△△(ファイル名)“
・URL : http://www.* * * *.com/* * * * “△△△△(ファイル名)“
4.The address, telephone number or email address of
the complaining party:
●●●●権利者住所●●●●
●●●●権利者電話番号●●●●
●●●●権利者FAX番号●●●●
●●●●権利者メールアドレス●●●●
5.I have a good-faith belief that use of the
material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner,
its agent or the law.
6.I state that the information in this notification
is accurate, and, under penalty of perjury, that I am authorized to act on
behalf of the owner of an exclusive right that is allegedly infringed.
Best regards,
●●●●(担当者名)
【添付用削除要請通知(日本語版)】
DMCAに基づく通知
“●●●●●(対象サイト運営者名)”
“●●●●●(対象サイト運営者住所)”
“●●●●●(対象サイト運営者メールアドレス)”
著作権侵害の通知
[私/我々/当社/当職(ら)]は、「●●●●●(権利者名)」を代表し、「●●●●●(対象サイト運営者名」における著作権侵害を貴社/貴殿に通知し、当該サイトにアップロードされている情報の削除又は当該情報をアクセス不能にするよう、以下のとおり要請いたします。
1.侵害されたとされる著作権者の独占権を代理する権限を付与された当事者の自署又は電子署名。
「●●●●●(権利者名)」を代理して
(署名)
2.侵害されたと主張する特定の著作物又は一つのオンラインサイトにおける複数の著作物が一つの通知によって対応する場合は、当該サイトにおける著作物の代表的なリスト。
・“□□□(作品名) □□□”
3.侵害されたと主張されている又は侵害行為の対象となり、削除されるべき又はアクセスを無効にすべき特定の資料、及びサービスプロバイダが資料を見つけることを可能にするために合理的に十分な情報。
下記のURLにアップロードされた—ファイル
・URL:http://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”
・URL:http://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”
4.苦情を通知した当事者の住所、電話番号又はメールアドレス。
・●●●●●住 所●●●●●
・●●●●電話番号●●●●
・●●●●FAX番号●●●●
・●●●メールアドレス●●●
5.[私/我々/当社/当職(ら)]は、苦情を通知された方法で情報を使用することが、著作権者、その代理人又は法律によって許可されていないと誠実に信じています。
6.[私/我々/当社/当職(ら)]は、本通知に記載された情報が正確であり、偽証罪の罰則の下、侵害を主張する独占的権利を保有する著作権者から権限を付与され、その権利を代理して行使していることを表明します。
敬具
●●●●(担当者名)
▶ 削除要請の参考書式②
(注)ここに掲載された様式にしたがって削除要請を行えば、相手方において必ず適切な対応がなされることを保証するものではありません。
(注)”DMCA”(Digital Millennium
Copyright Act)とは、いわゆる「米国デジタルミレニアム著作権法」の略称です。これは、米国で1998年10月に制定・施行された連邦法のことで、合衆国法典第17編に収録された著作権法(17U.S.C.)などを改正する立法です。この改正法(17U.S.C.§512)によって、海賊版コンテンツがウェブサイトなどに投稿された際の「通報と削除手順」――ノーティスアンドテイクダウン(notice and takedown)――及び免責条件が明文化されました。DMCAの制定後、日本のプロバイダ責任制限法(2002年成立)やEUの情報社会指令(2001年成立)など、類似する目的の法律が世界の他の地域で制定されました。
【削除要請メールの参考書式(英語版)】
<1. メールタイトル> DMCA Complaints
<2. メール本文>
To “●●●●●(対象ウェブサイト名)”
Notification of Copyright Infringement
On behalf of “●●●●●(権利者名)”, I
notify you of infringement of copyright on “●●●●●(対象ウェブサイト名)”and request you to remove, or disable access to, the material
uploaded on the above web site as follows.
1. Identification of the copyrighted work claimed to
have been infringed, or, if multiple copyrighted works at a single online site
are covered by a single notification, a representative list of such works at
that site:
・“□□□(作品名)”
・“□□□(作品名)”
2. Identification of the material that is claimed to
be infringing or to be the subject of infringing activity and that is to be
removed or access to which is to be disabled, and information reasonably
sufficient to permit the service provider to locate the material:
—file uploaded on
・URL:http://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”
・URL:http://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”
3. The address, telephone number or email address of
the complaining party:
・●●●●●住 所●●●●●
・●●●●電話番号●●●●
・●●●●FAX番号●●●●
・●●●メールアドレス●●●
4. I have a good-faith belief that use of the
material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner,
its agent or the law.
5. I state that the information in this notification
is accurate, and, under penalty of perjury, that I am authorized to act on
behalf of the owner of an exclusive right that is allegedly infringed.
Best regards,
●●●●(担当者名)
【削除要請メールの参考書式(日本語版)】
<1. メールタイトル> DMCA に基づく通知
<2. メール本文>
宛先:“●●●●●(対象ウェブサイト名)”
著作権侵害の通知
[私/我々/当社/当職(ら)]は、「●●●●●(権利者名)」を代表し、「●●●●●(対象ウェブサイト名)」における著作権侵害をここに通知し、上記ウェブサイトにアップロードされている情報の削除又は当該情報をアクセス不能にするよう、以下のとおり要請いたします。
1. 侵害されたと主張する特定の著作物又は一つのオンラインサイトにおける複数の著作物が一つの通知によって対応する場合は、当該サイトにおける著作物の代表的なリスト。
・“□□□(作品名)”
・“□□□(作品名)”
2. 侵害していると主張されている又は侵害行為の対象となり、削除されるべき又はアクセスを無効にすべき特定の情報及びサービスプロバイダによる発見を可能にするために合理的に十分な情報。
下記のURLにアップロードされた—ファイル
・URL:http://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”
・URL:http://www.****.com/**** “△△△△(ファイル名)”
3. 苦情を通知した当事者の住所、電話番号又はメールアドレス。:
・●●●●●住 所●●●●●
・●●●●電話番号●●●●
・●●●●FAX番号●●●●
・●●●メールアドレス●●●
4. [私/我々/当社/当職(ら)]は、苦情を通知された方法で情報を使用することが、著作権者、その代理人又は法律によって許可されていないと誠実に信じています。
5. [私/我々/当社/当職(ら)]は、本通知に記載された情報が正確であり、偽証罪の罰則の下、侵害を主張する独占的権利を保有する著作権者から権限を付与され、その権利を代理して行使していることを表明します。
敬具
●●●●(担当者名)
AK
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