著作物の公正使用と権利濫用
▶昭和60年10月17日東京高等裁判所[昭和59(ネ)2293]
… もし、文化的価値の高い著作物が死蔵されるべきでないとして、著作権者の許諾なしにその利用が許容されるならば、権利として保護する必要性の高い著作物ほど、その侵害が容易に許容されるという不当な結果を招来しかねない。著作権法は、同法第1条所定の目的のもとに、著作権を権利として保護すると同時に、その保護期間を限定し、かつ、適法引用等著作物の公正な利用に意を用いた規定を設けており、著作権の保護期間内であつても、法の定める公正な利用の範囲内であれば、著作権者の許諾を要せず、著作物を利用することができるものとしているのであり、このような法の仕組みのもとにおいては、著作権者の許諾もなく、公正な利用の範囲をも逸脱して著作物を複製し、著作権を侵害する行為があつた場合にこれを公けの文化財あるいは文化的所産の利用の名のもとに許容すべき法的根拠はない。…
(略)
したがつて、本件書籍の出版が前述するような文化的意義を有するものであつても、それが著作権侵害行為に該当する以上、前記認定の事情のもとにおいて、被控訴人が著作権侵害を理由に、控訴人に対し本訴を提起し、侵害の停止等必要な措置を請求し、かつ、侵害によつて被つた損害の賠償を請求することは、法律上認められる正当な権利の行使であつて、これをもつて権利濫用とすることはできない。…
0 件のコメント:
コメントを投稿