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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年7月15日火曜日

判例/地図の著作物の複製・翻案の判断枠組み及び判断手法(検討手順)

 

地図の著作物の複製・翻案の判断枠組み及び判断手法(検討手順)

令和5414日東京地方裁判所[令和3()17636]▶令和51012日知的財産高等裁判所[令和5()10059]

[控訴審]

1 当裁判所も、被控訴人各地図は控訴人各地図を複製、翻案したものとはいえず、控訴人主張の著作権及び著作者人格権の侵害は認められないと判断する。

その理由は、以下のとおりである。

2 争点1-1(控訴人地図1に関する著作権侵害の成否)について

(1) 総論

ア 地図の著作物の複製・翻案の判断枠組みについて

地図は、自然の地形、土地の利用状況、人工の造営物の種類・位置・形状、国境・行政区画等の境界、住所表示その他の地理情報を、図形、記号、文字、配色等を組み合わせて表現するものである。そして、地理情報自体は万人が共有すべき客観的な情報であるから、地図の著作物としての創作性は、地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現方法に求められると解される。もっとも、地図の実用的な用途を踏まえると、地図の利用者が地図に求める情報は常識的に自ずと一定の範囲に定まると考えられる上、地理情報としての客観性を保ちつつ、その内容を一見して認識可能な態様で示す必要から来る表現上の内在的制約も想定されるところである。その結果、地理情報の取捨選択にせよ、その配置等の具体的な表現方法にしても、選択の幅は狭く、創作的表現の余地は大きくないものと解される。こうした点を踏まえると、地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現に係る特徴が、上記のような常識的な選択の幅の範囲内にとどまり、従来の地図に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えるに至らない場合には、そのような個別の特徴の部分的な一致のみから直ちに創作的表現の同一性を導いて広く独占を認めてしまうような判断は適切でなく、相違点も含めた総体としての全体的な考察により、その表現上の本質的部分の特徴を直接感得できるかどうかを検討する必要がある。

イ 判断手法(検討手順)について

ところで、控訴人と被控訴人は、複製又は翻案の有無を検討する手法としての2段階テストと濾過テストの採否についてそれぞれの立場で主張しているが、要は、創作性のある表現部分について同一性があるといえるかどうかの判断がされれば足りるのであって、その判断に至る過程で、最初に両著作物の共通部分の抽出を行うか、創作性の認められる表現上の特徴にまず着目するかという検討手順に関しては、合理的・効率的な判断に資するための合目的的な観点から、事案に応じて適切に使い分ければ足りる。

本件では、控訴人の主張する手法(控訴人のいう2段階テスト)に沿って(部分的に濾過テストの手法を併用する。)、以下、検討することとする。

(2) 控訴人地図1の表現上の本質的特徴について

ア 控訴人は、控訴人地図1の表現上の本質的特徴として、別紙2記載の本質的特徴①~⑦を主張するところ、別紙の各控訴人地図1に照らして、控訴人地図1がその主張する特徴を備えていると認めることはできる。

そして、上記(1)アで述べたところに照らすと、上記本質的特徴①~⑦は、それぞれを個別に取り上げれば、地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現につき、上記のような制約の下での狭い幅での選択が示されているにとどまるものであり、従来の地図に比して顕著な特徴を有するといった独創性が含まれているとまでは認められない。

イ この点、控訴人は、特に本質的特徴①、同③、同④、⑤について、従来の常識にとらわれない素材の取捨選択を行うなどしたものであって、その一部の組み合わせだけでも独創性のある表現が認められる旨主張する。

しかし、まず、本質的特徴①に関していえば、後述するとおり、そもそも被控訴人各地図と共通するとは認められないものである(この点は濾過テストの手法を用いた。)。そして、本質的特徴③については、控訴人地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリゴンで記載した地図は複数存在したと認められ、本質的特徴④、⑤については、控訴人地図1の作成当時、建物の名称及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴンの中央付近に、(番地についてはアラビア数字で)折り返すことなく横書きされた記載を含む地図は複数存在したと認められ、いずれもありふれた特徴にすぎない。

なお、控訴人は、上記証拠の地図は、新旧番地を対照するという特殊な背景の下で作成されたものが含まれているなどと主張するところ、確かに、「番地」の取捨選択において、控訴人の主張する事情は重要な意味を有するといえるが、上記の証拠の中には、住居表示新旧対照図以外のものも含まれているし、「番地」の取捨選択以外の要素に関しては、従来のありふれた表現を示す証拠としての適格性を失うものではない。

控訴人の上記主張は採用できない。

ウ 以上に述べたところを踏まえると、控訴人地図1は、別紙2の本質的特徴①~⑦を備える総体として表現上の創作性を認めることができるものであり、その表現上の本質的部分の特徴を被控訴人各地図から直接感得できるかどうかも、これを断片的、部分的に捉えるのではなく、相違点も含めた総体としての全体的な考察により検討する必要があるというべきである。

(3) プロアトラス地図との比較検討

ア 各別紙のプロアトラス地図と控訴人地図1とを、控訴人主張の本質的特徴の項目ごとに比較すると、以下のとおり認められる。

()

イ 以上のとおり、控訴人地図1とプロアトラス地図とを比較検討すると、地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現方法における共通点は、断片的・部分的なものにとどまり、控訴人の主張する本質的特徴とされる点の多くは重要な点で一致しておらず、かえって、地図情報を表現する際の創作性に強い影響を及ぼす要素につき有意な相違点が多数認められるのであって、これらを全体的にみた場合、控訴人地図1の表現上の本質的部分の特徴がプロアトラス地図から直接感得できるとは、到底認めれないというべきである。

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