書の侵害性
▶平成1年11月10日東京地方裁判所[昭和62(ワ)1136]
文字自体の字体は、本来、著作物性を有するものではなく、したがってまた、これに特定人の独占的排他的権利が認められるものではなく、更に、書の字体は、同一人が書したものであつても、多くの異なつたものとなりうるのであるから、単にこれと類似するからといつて、その範囲にまで独占的な権利を認めるとすれば、その範囲は広範に及び、文字自体の字体に著作物性を認め、これにかかる権利を認めるに等しいことになるおそれがあるものといわざるをえない。したがつて、書については、単にその字体に類似するからといつて、そのことから直ちに書を複製したものということはできない、と解すべきである。
▶平成11年09月21日大阪地方裁判所[平成10(ワ)11012]
前記のとおり、「原告の趣及び華」は、文字を素材として造形表現される美術に関する著作物である。また、文字自体は、情報伝達手段として、万人の共有財産とされるべきところ、文字は当該文字固有の字体によって識別されるものであるから、同じ文字であれば、その字形が似ていてもある意味では当然である。したがって、書又はこれと同視できる創作的表現として、著作物性が認められるといっても、独占排他的な保護が認められる範囲は狭いのであって、著作物を複写しあるいは極めて類似している場合のみに、著作権の複製権を侵害するというべきであり、単に字体や書風が類似しているというだけで右権利を侵害することにはならないし、ましてや、著作権の翻案権の侵害を認めることはできない。
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