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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年8月30日土曜日

判例/独禁法と著作権の行使/独禁法上の不公正な取引方法に当たり不法行為を構成する、との主張を退けた事例

 

独禁法と著作権の行使

▶平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]

なお,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきであるが,本件においては,そのような事情が存するものとまでは認められない。

 

独禁法上の不公正な取引方法に当たり不法行為を構成する、との主張を退けた事例

▶平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]▶平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]

9 争点8(原告が,被告からの本件各映像の利用許諾申請を拒絶した上で本訴事件を提起した一連の行為は,被告に対する不法行為を構成するか)について

被告は,原告による行為①ないし同④の一連の行為が,独占禁止法2条9項1号イ(共同の取引拒絶)又は同項6号イ,一般指定2項(単独の取引拒絶)に定める不公正な取引方法に当たり,被告の使用及び表現の自由並びに本件映画の上映権及び頒布権を侵害する不法行為になると主張する。

しかし,行為ないし同は,いずれも原告による著作権及び著作者人格権の行使に他ならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではない(独占禁止法21条参照)。

原告による著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たると評価できないことは,前記6において認定説示したとおりであるが,行為ないし同についてなお具体的に検討するに,前記認定事実によれば,被告は,原告に対して映像の使用許諾を求める際,本件映画について「沖縄地上戦から現在までの沖縄の歴史,とりわけ沖縄米軍基地の存在による地域抑圧や性暴力の実態を,沖縄・アメリカの双方に取材してまとめた2時間30分(予定)の作品です。」と極めて簡単な説明を付記するにとどまり,このような説明のみしか情報が与えられていない原告が,著作権者として映像の使用を許諾しなかったこと(行為①)が,著作権制度の趣旨を逸脱するとか,その目的に反する不当な権利行使に当たるとは評価できない。そして,前記認定事実によれば,被告は,原告の許諾を得ないまま,本件各映像を使用した本件映画の公開に踏み切り,その本件映画には原告の名称が一切表示されていなかったのであるから,その後,原告が本件各映像の入手先の開示や重ねての謝罪を求め(行為②),事前に許諾を得て映像を使用させる場合よりも高額な使用料の支払を求めたとしても(行為③),著作権者による権利行使として著作権制度の趣旨を逸脱するとか,その目的に反する不当な権利行使であるなど評価することは困難である。同様に,本訴を提起したこと(行為④)が不当な権利行使ということもできない。

したがって,原告による行為ないし同の一連の行為が,独占禁止法所定の不公正な取引方法に当たり,被告に対する不法行為をも構成するとの主張は採用することができない。

 

[控訴審同旨]

(5) 行為ないしの違法性について(争点8関係)

控訴人は,被控訴人の行為①ないし④は,独占禁止法2条9項1号イ(共同の取引拒絶)又は同項6号イ,一般指定2項(単独の取引拒絶)に定める不公正な取引方法に当たり,かつ,被控訴人の権利濫用として,控訴人に対する不法行為に該当するとして,この点に関する原判決の認定判断には誤りがあると主張する。

しかしながら,被控訴人の行為①ないし④が,いずれも被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使にほかならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではないと解すべきことは,原判決が説示するとおりである。

しかるところ,被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使をもって権利濫用とすべき根拠ないし事情が認められないことは,前記(4)のとおりであるから,控訴人の主張はその前提を欠く。

なお,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきであるが,本件においては,そのような事情が存するものとまでは認められない。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,争点8に関する控訴人の主張は理由がない。

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