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著作権コンサルタントをしています。クリエーターの卵から世界的に著名なアーティストまで、コンテンツビジネスや著作権にかかわる法律問題について、グローバルに支援しています。 カネダ著作権事務所 http://www.kls-law.org/

2025年9月24日水曜日

判例/一般住宅の建築著作物性を否定した事例

 

一般住宅の建築著作物性を否定した事例

平成261017日東京地方裁判所[平成25()22468]

3 争点(2)()(原告表現建物の著作物性)について

(1) 建築物について,著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に当たるとして同法によって保護されるには,同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして,知的・文化的精神活動の所産であって,美的な表現における創作性,すなわち造形美術としての美術性を有するものであることを要すると解するのが相当である。

そして,一般住宅の場合についてみると,通常,その全体構成や屋根,柱,壁,窓,玄関等及びこれらの配置関係等において,実用性や機能性(住み心地,使い勝手や経済性等)のみならず,美的要素(外観や見栄えの良さ)も加味された上で,設計,建築されるのであり,そのことに照らすと,一般住宅が「建築の著作物」に当たるということができるのは,客観的,外形的に見て,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となり,建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解することが相当である。

この点に関して原告は,住宅は意匠法による保護の対象とはならないから,一般の著作物等同様に,もっぱら創作性の有無から「建築の著作物」に該当するか判断されるべきであると主張する。

しかし,不動産について意匠法による保護を認めるか否かはもっぱら立法政策の問題であるから,そのことを理由に造形美術としての美術性を要しないと解することはできないのであり,原告の上記主張は採用することができない。

(2) 原告は,上記(1)を前提としても,原告表現建物の表現上の本質的な特徴として,「箱の家手法」を表現するために,①シンプルなワンボックス型で屋根面を傾斜の緩い片流れ屋根とする,「内外のコントラスト」を表現するために,②内部と連続したウッドデッキ側の外壁面には,天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し,③デッキ面以外の三面にガルバリウム鋼板を用いる,「アウターリビング手法」を表現するため,④ウッドデッキとウッドデッキにつながる高さのある大きな掃き出し窓を設置する,また,モデル「フランクフェイス」のデザインコンセプトである「来るモノ拒まず,ウェルカムなオープンフェイス」の思想を表現するために,⑤横幅いっぱいのベランダを設け,⑥ベランダを支える梁と柱を同色とするという,以上の①ないし⑥の表現上の特徴を挙げ,それらの特徴は個々に,上記挙示した思想を創作的に表現したものであり,かつ,それら六つの表現上の特徴を組み合わせたことに造形美術としての美術性が認められるのであり,原告表現建物は著作権法10条1項5号の「建築の著作物」として著作物性を有すると主張する。

しかし,例えば,原告が主張する前記④の表現上の特徴である,「アウターリビング手法」を表現するため,ウッドデッキとウッドデッキにつながる高さのある大きな掃き出し窓を設置する,という点は,これによってリビングとウッドデッキをひとつながりのスペースにして,住人に開放感を与えることを目的とするものと認められ,その外観は機能上の理由に由来するものとみることができるし,また,原告が主張する前記⑤の表現上の特徴である,モデル「フランクフェイス」のデザインコンセプトである「来るモノ拒まず,ウェルカムなオープンフェイス」の思想を表現するために,横幅いっぱいのベランダを設ける,という点は,バルコニーを建物の横幅一杯に幅を持たせることにより,バルコニーのスペースを可能な限り広くして,利用上の自由度を可能な限り確保するとともに,玄関面に開放的な印象を与えることを目的とするものと認められ,主に機能性の観点から採用されたものと認められるように,原告が主張する前記①ないし⑥の表現上の特徴は,前記における原告表示の建物の商品等表示該当性の判断と同様に,いずれも建物の抽象的なコンセプトそのもの,若しくはその実用性・機能性を抽象的に表現したものにすぎず,さらにそれら全てを組み合わせたものとしてみても,その内容をもってアイデアと離れた具体的な表現と認めるのは困難であるというべきである。

(3) 仮に原告が主張する前記①ないし⑥の表現上の特徴が,別紙1原告表示目録の写真に具現された原告建物の特徴と相まって,具体的な表現であると認められるとしても,以下のとおり,それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認められないというべきである。

ア 証拠によれば,次のような建築住宅が存在することが認められる。

()

() 以上認定したところによれば,原告が主張する前記①ないし⑥の表現上の特徴は,いずれも住宅の外観として多くの住宅に採用されていることが認められるから,それを建築の著作物における具体的な表現とみるかぎり,ありふれた表現であるといわざるを得ない。

() そして,原告が主張する前記①ないし⑥の表現上の特徴について,前記(3)アの認定に照らしつつ原告建物の外観をみると,まず,その建物全体については,玄関面からはその反対側に向けて下降する片流れ屋根を備えた総2階建木造住宅であり(前記①の表現上の特徴),その片流れ屋根に着目しても,緩やかな傾斜を設けたもので,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。

次に,原告建物の外壁面をみると,ウッドデッキを備える玄関面側の外壁面には,天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し(前記②の表現上の特徴),玄関面以外の三面の外壁面にガルバリウム鋼板を使用している(前記③の表現上の特徴)。このように,玄関面以外の三面の外壁面を,金属の無機質さと縦方向に設けられた凹凸とが相まってシャープな印象を与えるガルバリウム鋼板で覆い,玄関面の外壁面を,その全面を木部とし,天然の木目と色合いをそのままに板張りの仕上げにすることは,ログハウス様式の住宅において一定の工夫が施されたものであるとはいえても,前記(3)ア認定のとおり同様の組合せを施した住宅が存在することに鑑みると,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。

さらに,原告建物の玄関面をみると,内部と連続し,かつ玄関面の横幅全体に展開して玄関面前面に突出させたウッドデッキを備え,かつ,ウッドデッキにつながる高さのある大きな掃き出し窓を設置し(前記④の表現上の特徴),2階部分に建物の横幅いっぱいにベランダを設け(前記⑤の表現上の特徴),ベランダを支える梁と柱を同色とする(前記⑥の表現上の特徴)というものであるが,いずれも一般住宅のありふれた外観にすぎず,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。

また,前記⑥の表現上の特徴については,玄関面が長方形であって,図形として極めて基本的な形状であるなかで,同色で構成する前記梁と柱を配置してトリムラインを加えることにより,外観にアクセントを与えており,外観に美的形象として一定の工夫が施されたものであるとはいえる。しかし,前記(3)ア認定のとおり同様に同色の梁と柱を配置してトリムラインを形成する様式は,他の住宅にも採用されていることに鑑みると,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。

() 以上のとおり,原告建物の(1)建物全体の外観,(2)建物の外壁面,(3)玄関面のいずれをみても,それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができないから,さらにそれを抽象化した原告が主張する前記①ないし⑥の表現上の特徴を備える建物が,一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることは到底できないというべきである。

() この点に関して原告は,2004年(平成16年)にグッドデザイン賞を受賞したことを著作物性のあることの理由とするが,前記2(3)()において認定したのと同様の理由で,原告がグッドデザイン賞を受賞したことは,原告表現建物の造形美術としての美術性を根拠付けるものと認めることはできない。

() 以上のとおりであり,原告表現建物に造形美術としての美術性が備えられているとは認められないから,原告表現建物が著作権法10条1項5号の「建築の著作物」としての著作物性を有すると認めることはできない。

(4) 小括

よって,原告表現建物の著作権侵害を理由とする原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

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