言語著作物の侵害性一般
▶平成22年7月14日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10017等]
被控訴人は,控訴人書籍が被控訴人書籍に依拠していること(当事者間に争いがない)を前提として,原判決添付別紙対比表1の…合計15箇所の「物語」欄の下線部分の各記述部分がそれぞれ表現上の創作性を有する著作物であり,これと表現上の同一性又は類似性を有する控訴人書籍の「破天荒力」欄の対応する下線部分の各記述部分がその複製又は翻案に当たる旨,特に,対比文章(No.71の「物語」欄の下線部分)が被控訴人の正造という人物に対する一定の評価が個性的に表出した部分であり,単なるアイデアではなく,被控訴人の創作性を有する表現であるとして,本件文章が対比文章の複製又は翻案に当たる旨を主張する。
そこで検討すると,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決参照)。ここで,再製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきであるが,同一性の程度については,完全に同一である場合のみではなく,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない,すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。
また,著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないものと解するのが相当である(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。
したがって,上記各控訴人書籍記述部分がこれに対応する上記各被控訴人書籍記述部分の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,当該被控訴人書籍記述部分が創作性を有する表現といえるか否か,創作性を有する場合に当該控訴人書籍記述部分がこれを再製したものであるか否か及び当該被控訴人書籍記述部分の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか否かを検討する必要がある。
そこで,以上の見地から,原判決添付別紙対比表1について個別に検討することとする。
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