ノンフィクション(歴史的事実を含む作品)の侵害性
▶平成25年03月14日東京地方裁判所[平成23(ワ)33071]
被告書籍の第3章は,原告書籍に依拠しているから,本件において,被告各記述が原告各記述を複製又は翻案したというためには,原告各記述のうち被告各記述と同一性を有する部分が思想又は感情を創作的に表現したものであり,かつ,被告各記述が,原告各記述と同一であるか,又は,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものであることが必要である。
イ そこで,被告各記述が原告各記述を複製又は翻案したものか否かについて検討する。
(ア) 被告第1記述について
原告第1記述と被告第1記述とは,バスは満席だったが,誰一人しゃべる者もなく,静かだったこと,室内灯が消されたことを著述している点において共通し,同一性がある。
バスは満席だったが,誰一人しゃべる者もなく,静かだったことは,その事実に加え,原告を含むバスの乗客が抱いていた不安の感情を表現したものといえるが,当該状況における感情を表現したものとしてはありふれたものであるから,表現上の創作性がない。また,室内灯が消されたことは,事実であって,表現それ自体ではない。
原告は,原告第1記述のうち,①「室内灯を消してみた」は原告が泣いているところを見せたくないという感情を表現したものであり,②「だれ一人しゃべる者もなく」や「室内灯」は選択し得る表現の幅が広いから,創作性があると主張する。しかしながら,①については,被告第1記述のうち原告第1記述中の「室内灯を消してみた」と同一性を有する部分は,「室内灯が消された」という記述だけであり,これは事実であって,感情を表現したものということはできない。また,②については,選択し得る表現に幅があるとしても,「だれ一人しゃべる者もなく」や「室内灯」との記述だけでは,原告の個性ないし独自性が表れているとはいえないから,表現上の創作性がない。原告の上記主張は,採用することができない。
したがって,被告第1記述は,原告第1記述を複製又は翻案したものということはできない。
(イ) 被告第2記述について
原告第2記述と被告第2記述とは,朝元気に家を出た人が,その夕刻に死ぬなんて,原告にはどうしても信じられなかったこと,悪夢と思ったこと,夫のいない生活を考えたこともなかったこと,これから一人になると思うと,涙が止めどなく溢れてきたこと,原告は周囲に知られないよう涙をふいたことを著述している点及びその著述の順序においてほぼ共通し,同一性がある。
これらは,その事実に加え,原告が抱いた悲しみの感情を創作的に表現したものであり,被告第2記述は,原告第2記述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,被告第2記述を一読しただけで,その特徴を直接感得することができるものである。
被告Bは,原告第2記述中の「悪夢でも見ている」及び「周囲に気づかれないように涙をそっとふいた」並びに順序は創作性がないと主張する。しかしながら,前記の同一性を有する部分は,感情の形容,強調方法や言い回しにおいて,原告の個性ないし独自性が表れていることが明らかである。被告Bの上記主張は,採用することができない。
したがって,被告第2記述は,原告第2記述を複製又は翻案したものということができる。
(以下略)
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